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日本社会

外国人を犯罪者予備軍とみなす日本の入管の許されざる実態

2021年5月25日(火)16時45分
にしゃんた(羽衣国際大学教授、タレント)

入管収容施設内での死亡はこれまで余りニュースとして取り上げられなかった(写真は東日本入国管理センター) Yuya Shino-REUTERS

<性善説で成り立つ日本の社会で、なぜ白人以外の外国人は性悪説をもって扱われるのか>

しばらく前から「お悔やみ申し上げます」「ごめんなさい」「申し訳ない」や「日本を嫌いにならないでね」と、心優しい日本の人々からメッセージが届いている。

今日本で「スリランカ」が最も話題の国の一つになった。私の出身地でもあるスリランカ人のウィシュマ・サンダマリさん(享年33才)が、今年3月6日に名古屋出入国在留管理局(名古屋入管)の収容施設に収容中に亡くなった。入管収容所で命を落とした人間は2007年以降だけでも21人となる。この手の話は今まであまりニュースとして取り上げられることがなかった。ある意味珍しく収容施設内での死亡が全国ニュースとなった。

今回は難民申請に関するルールの見直しを掲げた入管法改正が閣議決定され、国会で可決される予定となっていたタイミングで起きた事件で、改正入管法と彼女の死が重ねて扱われた。冷ややかな言い方をすれば、野党は存在感を示すために先月23日の衆院法務委員会で議題に挙げ、追及した。そして、支持率をこれ以上下げたくない与党は、今国会での法案可決を見送った。彼女の死が与野党に利用されたようにも見える。そして、廃案の見通しがたつと、彼女の死が、メディアで報道されることはほとんどなくなった。

彼女と私は共通点がある。出身地が同じこと、来日にあたり親が家を抵当にして金を借り、送り出してもらっている点などだが、似ていないことも多い。男と女の違いもあるが、何よりも高校の途中で日本に来た私などと違って、彼女は超がつくほど優秀な人材だった。難関中の難関の国立大学を卒業してスリランカで英語の教員として務めていた。日本で英語の教員として働いている幼馴染のようになりたいという志をもって2017年の6月に来日。それから4年も経たぬうち変わり果てた姿で、恋い焦がれた日本で息を引き取った。

遺族は、収容所の故人の姿が映された映像を強く求めているが、ビデオ映像の公開は保安上の理由から入管側に拒否された。とてもではないが見せられないような悲惨な状況で息を引き取ったに違いない。映像を見せられない理由はそれ以外にありえない。もしも彼女の初心が叶えられたなら自らの人生も輝き、日本にとっても貴重な人材になったに違いない。そしてもう一つ、思うところがある。一歩間違えれば、死んだのは私だったかも知れないということだ。

担当警察官の余りにひどい態度

話は変わるが、日本で入国管理局や警察関係で通訳という仕事がある。ギャランティーも良い。実は今から25年前、大学院生だった頃の私は2つの案件で通訳をしたことがある。一人目は超過滞在の罪で捕まえられていたAさん。彼はスリランカの少数民族のタミル人だった。スリランカ人が捕まったということでスリランカ人の私が呼ばれたが、私はスリランカの多数派のシンハラ人だ。日本の行政に母語の概念が欠落していることに気づいたのはおそらくその場にいた私と彼だけだったが、運よく彼がシンハラ語に合わせてくれたのでなんとか成立した。

2件目はBさんで、容疑は不法就労助長罪だった。Bさんは在日歴が長い。そんな彼の元に新参者のスリランカ人Cさんが生活苦を訴えて仕事を求めてやって来たようだ。B氏は、頼ってやって来た若者にかつての自分の姿を重ね、御飯を食べさせ仕事をさせたようだ。そんな中Cさんが警察に捕まった。粗大ゴミとして道端に出ていた使えそうな椅子をもったい無いと思ってもって帰ろうとしていた時に怪しい外国人と110番があったようだ。やって来た警察に在留資格を確認され、超過滞在であることが発覚。本人もそして雇い主だったBさんも逮捕された。

私は警察の事情聴取の部屋で腰紐を付けられたBさんと会ったのだが、彼とは初対面ではなかった。彼と私はかつて日本語学校の同級生だった。来日した当初、2人で机を並べて勉強していたが、しばらくして彼が姿を消した。その後、自動車解体の仕事に就いて成功しているとの噂は聞いていが、会うのは久しぶりだった。お互いの過去の接点についても触れることもなく私は淡々と通訳に徹した。

通訳の途中から、私はひどい気持ち悪さを覚えた。他でもない、担当警察の言葉が私をそうさせた。彼は私を「先生」と呼び、B君を「アホ」「ボケ」「カス」と呼んでいた。私は通訳しながらなぜ2人の扱いがこんなにも違うのかを考えた。理由は考えるまでもなかった。私は日本で法律を守っていて、彼は法律を破っていた。それが理由だ。

実はB君と私はスリランカの地元も一緒だった。そして地元では、彼と私は真逆の評価を受けていた。私などは日本での自分の生活のことで精一杯で、長年、親孝行一つ出来ていなかった。その点、B君は地元ではヒーローだった。親孝行はもちろん、地元では多くの人を幸せにし、社会貢献し、日本のイメージを上げていた。日本に行っておきながらスリランカに対して何一つ出来ていない僕が地元では「アホ」扱いされていた。それはおそらく今でも変わらない。

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