最新記事

米外交

オバマのアジア歴訪は「物乞い行脚」

金融危機で力も面目も失った今のアメリカは、頭を下げて回るのが精一杯。新世界秩序へようこそ!

2009年11月12日(木)17時59分
マイケル・ハーシュ(ワシントン支局)

隔世の感 中国に対して責任ある行動を迫ったこともあるかつての強気は過去のもの(写真は、毛沢東を模したオバマのTシャツ。今年9月の北京で) David Gray-Reuters

 バラク・オバマ米大統領は今週、満面の笑みをたたえてシンガポール入りすることだろう。子供時代を過ごしたインドネシアの首都ジャカルタからそう遠くないシンガポールで、オバマは自身にとって初となるアジア太平洋経済協力会議(APEC)に臨む。

 もっとも、今のオバマには笑顔以外に振りまくものがない。しかも、それは頼みごとをするときの作り笑いだ。

 APEC終了後に訪問する中国では、その傾向はとりわけ顕著になりそうだ。オバマは中国で、ジム・スタインバーグ国務副長官が先月「戦略的安心」と呼んだ新たな政策を売り込みたいと考えている。

 これは中国やインド、ブラジルのような新興国に対し、アメリカの国益を守りつつも、互いに安心感を与える対応をすること。アメリカが中国などの台頭を歓迎する見返りに、新興国側は将来に渡ってアメリカに意地の悪い態度を取らないよう求める。非常に相互的で「暗黙の取引」だと、スタインバーグは言う。

 アメリカが中国に対し、「責任あるステークホルダーとして振る舞わなければ、アメリカ主導のグローバルシステムから非難される」と迫った時代を思うと、隔世の感がある。

 腰が低い新生アメリカのイメージにふさわしく、オバマはアジア歴訪中、何も「土産」をもたずにお願いを繰り返すことになる。中国に米国債を買い続けてもらわなくては困るという事情が、中国滞在中のあらゆる場面に影を落とすだろう(中国も対米輸出を続けるために米経済の回復を望んでいる)。

 コペンハーゲンで開かれる国連気候変動枠組み条約の第15回締約国会議(COP15)が来月に迫っているというのに、オバマは人権や温暖化対策について胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席に圧力をかけることもできないだろう。

日本や韓国への手土産もなし

 温室効果ガスの排出削減に関する法案を米議会が成立させる可能性が低いなか(オバマは医療保険から経済改革、気候変動まであらゆる問題を議会の判断に委ねる傾向がある)、コペンハーゲンでの米政府の目標は会議を「台無しにしない」ことに引き下げられたと、ある西側関係者は言う。

 日本と韓国でも、オバマは両国にとって極めて深刻な脅威である北朝鮮問題について、新たな提案をできそうにない。

 シンガポールで行われるロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領との首脳会談も、イランの核開発を封じ込める手助けをロシアに要請することが中心になりそうだ。

 国連安全保障理事会常任理事国にドイツを加えた関係6カ国とイランによる協議が10月1日にジュネーブで行われ、一定の成果を挙げたかにみえたが、その後の展開は期待はずれだ。イランは低濃度ウランを第三国で濃縮・加工する案にいったん合意したものの、まもなく撤回。今後の協議の議題設定にも同意していない(合意では、イランは低濃縮ウランの大半を濃縮のためにロシアに搬出し、その後フランスで軍事転用がむずかしい燃料棒に加工したうえで再輸入することになっていた)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:メダリストも導入、広がる糖尿病用血糖モニ

ビジネス

アングル:中国で安売り店が躍進、近づく「日本型デフ

ビジネス

NY外為市場=ユーロ/ドル、週間で2カ月ぶり大幅安

ワールド

仏大統領「深刻な局面」と警告、総選挙で極右勝利なら
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 2

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆発...死者60人以上の攻撃「映像」ウクライナ公開

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    メーガン妃「ご愛用ブランド」がイギリス王室で愛さ…

  • 5

    米モデル、娘との水着ツーショット写真が「性的すぎ…

  • 6

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 7

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「ノーベル文学賞らしい要素」ゼロ...「短編小説の女…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 6

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 7

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 8

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 9

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中