最新記事

米外交

オバマのアジア歴訪は「物乞い行脚」

2009年11月12日(木)17時59分
マイケル・ハーシュ(ワシントン支局)

 イランが再び強硬姿勢に転じた背景には、イランの大統領選をめぐる政治的混乱があると、オバマは考えている。さまざまな勢力が政治的利権を争うなか、急進派とされるマフムード・アハマディネジャド大統領は核問題についていまや、大統領選で敗れたミルホセイン・ムサビのような改革派より穏健な立場にある。

 アハマディネジャドは欧米との合意の履行を望んでいるが、ムサビはウランがいったん国外に運ばれたら二度と取り戻せないのではないかという国民の不安につけ込み、アハマディネジャドの姿勢を非難している。「誰がより強硬で、アメリカにすり寄っていないかを競っている」と、この協議に深く関与している外交関係者は言う。

 オバマ政権はロシアがイランに対し、国際原子力機関(IAEA)の理事会が開かれる今月末までに、少なくともウラン搬出問題については合意したほうが国益にかなうと説得するよう期待している。

経済では口出しできる立場にない

 各国政府の「だから言っただろう」という態度も、終始つきまとうことになるだろう。アメリカ政府はもう20年近く、多くのアジア諸国が発見したアメリカとは違う発展の仕方を認めずにきた。国の経済の一部を保護し金融システムを厳しく規制する、いわゆるアジア型発展モデルだ。

 これに対しアメリカは市場開放の圧力をかけ、中国や日本が抵抗すると、時代の流れに逆行する政策と非難した。97~98年にアジアを経済危機が襲ったときも、悪いのはアジア各国の政策だと決めつけた。だが当のアメリカ経済は、自ら世界に向けて解き放った国際資本の奔流がもたらした損失のせいで半ば水没したままだ。アジアを訪ねても、今のオバマにできる経済的なアドバイスなどほとんどない。

 アジア訪問は、オバマにとって帰郷の意味ももつ。60年代後半の子供時代、彼は異国の野趣にあふれたジャカルタで無邪気に過ごした。同時に、母親が勤める米国大使館の会員制社交クラブの恩恵も満喫した。このアメリカンクラブは、彼にとって希望と機会の象徴だった。

 インドネシア人の友人たちの無力さと、白人のアメリカ人を母にもつがゆえの自分の特権を理解したのもこの頃だ。「ちょうど、周囲の事情を理解し始める年齢だった」と、オバマのスピーチライターの一人、ベン・ローズから聞いたことがある。「そして彼は、アメリカには他の国の人々が欲しがる何かがあることに気づいた」

 しかし今日、他の国から何かを欲しがっているのはアメリカのほうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英CPI、4月前年比+2.3%で予想上回る 利下げ

ビジネス

独連銀、インフレリスクを警告 賃金が予想以上に上昇

ワールド

中国、ロッキードなど米軍関連企業12社と幹部に制裁

ワールド

イスラエル軍、ラファ中心部近くへ進軍 中部でも空爆
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の大群、キャンパーが撮影した「トラウマ映像」にネット戦慄

  • 4

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 5

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 6

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    「韓国は詐欺大国」の事情とは

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中