コラム

韓国は「移民国家」に向かうのか?

2024年05月22日(水)19時22分
韓国で15年働くトルコ出身のセルダル・アクジャダさん

トルコ出身のセルダル・アクジャダさんは韓国で15年働くが永住権はいまだ取得出来ていない SBS 뉴스 / YouTube

<日本同様、労働力不足が懸念される韓国、その特殊事情とは>

日韓の18歳はよく似ている?

先日、TBSラジオの「荻上チキ・ Session」で取り上げられていた日本財団の「18歳意識調査」が興味深かったので、元データをたどってみた。

日本、イギリス、米国、中国、韓国、インドの6カ国の中で、日本と韓国の若者の意識がよく似ているのは予想通りだったが、「あれ?」と思ったのは貧困問題への意識。ここでは中国も含めた日中韓の若者が他国の18歳とは対照的であり、特に韓国では貧困問題はあまり重要とは考えられていないようだ。

下記に示す課題のうち、現在の自国にとって重要なものはどれだと考えますか。3つまで選択してください(複数回答3つまで、n=1000)。

ただ、中国の場合、こういった調査に参加できる層は限定的だろう。番組に出演していた阿古智子教授が指摘したように、都市と農村の差もはげしいから、この結果が全体を代表するとは言いにくい。

韓国の場合、地域差は問題にならないが、「18歳」という年齢が特別すぎる。たとえばメディア関連の質問で、韓国には「新聞を毎日読む」と答えた人が多かったことが驚かれていたが、大学受験を前にした18歳なら当然だろう。試験問題や小論文の対策に新聞はとても重要であり、そのテーマは今の韓国でもっともホットなイシューといえる。

彼らが考える自国の最重要課題は、その1位が少子化、2位が高齢化、そして3位は経済成長である。日本の18歳もそこまではぴったり同じということで、日韓はここでもそっくりだ。

少子高齢化対策としての、外国人労働者移入政策

さて、前回の「外国人労働者問題」の続きだ。日韓両国で「少子高齢化」が最重要課題であり、「外国人労働者の移入政策」はそこにリンクする。

「移民政策を取り入れなければ、国家が消滅してしまう」――人口減少を補完するために、韓国政府は「移住労働者」を増やす方針のようだが、社会の受け入れ体制は十分ではない。日本に先駆けてシステムは整えたものの、国民の意識が追いつかない。それを象徴するのが、前回も取り上げた「ビニールハウスの宿舎」問題である。

農村で働く移住労働者の居住環境が劣悪な原因の一つは、韓国社会の差別意識にある。彼らを働く仲間とか、地域で共に暮らす隣人とは考えない。それは村全体の意識なのだろう。それでなければ、ご近所の手前、ビニールハウスに住まわせることなどできないと思う。

一方、工場労働者の場合は、また別の問題がある。釜山郊外でビニール加工工場を経営している友人は慢性的な労働者不足に悩んでいたが、雇用許可制によりインドネシア人の労働者を雇用することができた。彼はとても喜んで、さっそく近隣のマンションの部屋を借りて寮にしようとしたのだが、住民の激しい反対にあった。結局、マンションを諦めて、工場の一部を寝泊まりできるように改造したと言う。

「外国人が集団で暮らすようになると、マンションのイメージが悪くなって、不動産価格が下がってしまうと言われました。うちで買ってしまえばいいんですが、そこまでの資金はないので......」

プロフィール

伊東順子

ライター・翻訳業。愛知県出まれ。1990年に渡韓、ソウルで企画・翻訳オフィスを運営。新型コロナパンデミック後の現在は、東京を拠点に日韓を往来している。「韓国 現地からの報告」(ちくま新書)、「韓国カルチャー 隣人の素顔と現在」(集英社新書)、訳書に「搾取都市ソウル‐韓国最底辺住宅街の人びと」(筑摩書房)など。最新刊は「続・韓国カルチャー 描かれた『歴史』と社会の変化」(集英社新書)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story