コラム

オバマ民主党大敗、その理由と今後の政局

2014年11月06日(木)11時35分

 そのような「不安感」の中で、例えばエボラの問題にも過敏になるわけです。西アフリカで人道支援をしてきた医療従事者は、オバマの言うように「ヒーロー」なのか、あるいはクリス・クリスティー知事(ニュージャージー州)の言うように「住民感情を考えると強制隔離」すべきなのか。アメリカの世論全体では後者に共感する感覚があるのは確かです。

 もちろん、アメリカ人の全員がこうした「不安感」に引っ張られているのかというと、必ずしもそうではなく、依然として理想主義に燃える人々、そしてマイノリティを中心に、「自分たちの権利主張」を胸を張ってアピールする人も多いわけです。ですが、2008年にオバマを大勝させたこうした層は、今回は投票所に行かなかったのです。

 今回の選挙結果を見れば、アメリカは「内向き」であり、何よりも「世界情勢や景気の不透明感」に怯えているのだと言えます。今後の政権運営においては何よりもこの点、特にQE終了後の景気の足を引っ張らない経済政策が必要でしょう。この点でオバマはより踏み込んだ妥協をしていかなくてはならないと思います。

 具体的には、「増税で格差是正を」という姿勢は引っ込めざるを得ないでしょうし、現在の原油安で満足せずに国内のエネルギー開発を推進するなど、共和党の主張を取り入れていくことは避けられません。

 さて、今回民主党は歴史的な大敗を喫しましたが、同じ民主党とはいえヒラリー・クリントンは「そんなに傷ついていない」という見方があります。また、共和党が躍進する中で上下両院ともに多くの女性議員が誕生し、「女性大統領誕生は当然」というムードもさらに濃くなっています。今回の選挙が「オバマ時代の終わりの始まり」を告げる一方で、これを契機にヒラリー待望論はむしろ加速するように思います。

 対する共和党では、先ほど紹介したクリスティー知事が全国を応援演説で回っており、2016年へ向けて有力大統領候補としての認知を固めたようです。また、今回圧勝して再選されたウィスコンシン州のスコット・ウォーカー知事を加えたこの2人は、「行政のコストカッター」の実績をアピールすることで大統領選の予備選挙を「引っかき回す」存在になっていくでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマス、カイロに代表団派遣 ガザ停戦巡り4日にCI

ワールド

フランスでもガザ反戦デモ拡大、警察が校舎占拠の学生

ビジネス

NY外為市場=ドル/円3週間ぶり安値、米雇用統計受

ビジネス

米国株式市場=急上昇、利下げ観測の強まりで アップ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story