コラム

トランプとかけて『アナ雪』のエルサと解く、その心は?

2020年12月28日(月)16時40分

感謝祭での恒例行事、七面鳥への恩赦のように自身の罪もカジュアルに許す? Hannah McKay-REUTERS

<トランプは自身も関わる疑惑で罪に問われた人を含め、退任間際に恩赦を与えまくっている。その先には超法規的存在として自身の罪を永久に免除する「完全予防自己恩赦」を行使する野望があるかもしれない>

外出を控え、家で映画を見過ぎているせいか、最近の僕にはドナルド・トランプ大統領がディズニー映画『アナと雪の女王』のエルサ女王に見える。特に、魔法の力を振るいながら「レット・イット・ゴー!」と歌う場面のエルサにトランプはそっくりだ。

Let it goの日本語訳は「ありのままで」だ。そんな意味もある。恐れ多くて、ディズニーの翻訳さんにダメ出しはしない!でも英語だと「いやなことを忘れよう」というニュアンスが強い。

アメリカ憲法は、法律を作る議会やその法律の下で犯罪者を取り締まる司法を簡単に超えられる特別な権力を大統領が独断で行使できると、定めている。トランプはその三権分立の抑制と均衡をないがしろにもできる、魔法のような力を振るいながら、人がやった「いやなこと」を忘れさせようとしている。

もちろん、恩赦の話だ。

恩赦制度自体は存続すべきと広く考えられている。反逆者を許すことで国の分裂を避ける。不正に取り締まりされた人を助ける。過去の不当な法律で取り締まりされた者を救う。国益につながる目的で試行する、そういう正当な恩赦はもちろんある。

しかし、よくない恩赦もある。それらを、分かりやすくレベル分けしてみよう。

実は歴代政権の恩赦も問題だらけ

レベル1は将来の責任追及から守る「予防恩赦」。例えば、ジェラルド・フォード大統領は、弾劾される寸前に辞任したリチャード・ニクソン元大統領を、逮捕・起訴もされないうちに恩赦した。「俺は犯罪者じゃない」とニクソンは名言を残したが、まあ犯罪者だった。恩赦を受けることでそれを認めたとされている。しかし、本人の口から事実を語ってもらっていないし、反省の言葉も出ていない。やはり将来の責任追及から人を逃れさせる予防恩赦はよくない。予防接種は大事だよ(念のために言っておこう)。

レベル2はセレブやコネのある人への「上級国民的な恩赦」。わかりやすいのはジミー・カーター大統領が音楽グループ、ピーター・ポール&マリーのメンバーに与えた恩赦。それより批判の的になったのは、ビル・クリントン大統領が弟に与えた恩赦や、億万長者(その元妻が高額の政治献金者だった)に与えた恩赦。ちなみに、その億万長者の名前はマーク・リッチ。名前までお金持ちっぽい!でも、個人的にそれよりも僕がむかつくのはロナルド・レーガン大統領が与えたヤンキースのオーナー、ジョージ・スタインブレナーに与えた恩赦。僕、レッドソックスファンだから。

レベル3は「政府関係者への恩赦」。この代表例はレーガン政権下で起きたイラン・コントラ事件の関係者への恩赦。議会が法律ではっきりと禁じていたニカラグアの反政府ゲリラ集団への資金援助に流用するため、アメリカの敵国イランへ武器が売却された、というとんでもない不祥事だったが、次の政権でジョージ・ブッシュ大統領は有罪判決を食らった高官など5人に恩赦を、そして裁判を控えていた事件当時の国防長官に「予防恩赦」を与えた。

もちろん、司法上の責任追及は不祥事の抑止力となり、政界の自浄作用として欠かせない。前政権とはいえ、大統領が政府関係者を恩赦するならば、政権内がやりたい放題になり得る。偽証罪も許されることで、事実確認もできなくなる。現に、事件当時の副大統領だったブッシュ大統領も自分の罪を隠すために恩赦を与えた可能性がある。だからイラン・コントラの恩赦はいらんことだ!と、一番厳しく批判されたのだ。

トランプが登場するまでは。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story