最新記事
海外ドラマ

無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイちゃん』...予想外の大ヒットはなぜ?【ネタばれ注意】

Tale of an Obsession

2024年5月16日(木)14時55分
イモジェン・ウェストナイツ(作家、ジャーナリスト)
『私のトナカイちゃん』

マーサ(右)はパブに通い詰め、ドニー(左)に付きまとい、毎日大量のメールで妄想を膨らませ、思いが伝わらない怒りを爆発させる NETFLIXーSLATE

<恐怖のストーカー被害に決着をつけた後に...。善と悪の危うい境界、正気と狂気の曖昧なスパイラルについて>

ほんのささやかな親切が、あなたの人生を破滅させるかもしれない。それがドラマ『私のトナカイちゃん』だ(この記事はネタバレを含みます)。

ネットフリックスで4月に配信が始まった直後から、予想外の大ヒットとなっている。アメリカでは無名で、母国のイギリスでもほとんど知られていないコメディアンが制作・主演している1シーズン完結のシリーズとしては異例の成功だ。

全7話を見た私が保証しよう。『私のトナカイちゃん』は口コミどおり、とてもよく出来ていて、とても怖い。

ドニー(リチャード・ガッド)はロンドンのパブで働く売れないコメディアン。ある日、カウンターでうなだれている中年の女性客をふびんに思い、紅茶を1杯おごる。

マーサと名乗る彼女は弁護士だと言い、店に通い始め、ドニーを「私のトナカイちゃん」と呼んで執着するようになる。

最初はドニーも面白がっていた。何にせよ注目されるのはうれしかった。

しかし、マーサはドニーだけでなく彼の恋人にも執拗に付きまとう。電話をかけ、大量のメールを送り、どこにでも現れる。彼のライブに押しかけて大声で掛け合いを始め、自宅前のバス停に何時間も座っている。

こんなことが現実にあり得るのだろうかと、一瞬でも疑った私は自己嫌悪に陥った。この物語の大部分は、実際に起きたことなのだから。

留守電メッセージの闇

『私のトナカイちゃん』は、ガッドが自分の実体験を描いた舞台と一人芝居を基にしている。ガッドは実際にストーカーの被害に遭った(ただし、マーサは明らかに脚色されている)。ストーカーは彼の生活に侵入し、膨大な量のメールを浴びせた。

さらに、ガッドはコメディー業界の年長の男性から性的虐待を受けたこともある。いずれの経験もドラマの中でドニーの不安をあおり続け、破滅寸前に追い込んでいく。

ほぼ同じようなことがガッドの身に本当に起きたのだと知っていても、知らなくても、見ていてつらいドラマだ。加害者がドニーに薬物を使って性的虐待を加える場面は、見続けることが苦痛になる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾巡る日本の発言は衝撃的、一線を越えた=中国外相

ワールド

中国、台湾への干渉・日本の軍国主義台頭を容認せず=

ワールド

EXCLUSIVE-米国、ベネズエラへの新たな作戦

ワールド

ウクライナ和平案、西側首脳が修正要求 トランプ氏は
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 7
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 8
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中