コラム

トランプとかけて『アナ雪』のエルサと解く、その心は?

2020年12月28日(月)16時40分

トランプは上記の「良くない恩赦」を全部やっている。2017年に大統領として行った最初の恩赦はアリゾナの保安官への予防恩赦。イラクで子供を撃ち殺した戦争犯罪者も含めて、政治的な味方や友人の勧めで「上級国民的な恩赦」を数多く与えている。そして、偽証罪などで有罪となったジョージ・W・ブッシュ(ジュニア)政権の政府関係者にも恩赦を与えている。レベル1,2,3を全部制覇した、いけない恩赦の三冠王だ!

しかも、トランプはそこで満足せずさらに上を目指しているようだ。つまり、恩赦の新しいレベルを作ること。それが、大統領自身が対象となる捜査の関連で罪に問われた人への「自己防衛恩赦」。

ロシアによる2016年の米大統領選へ介入にトランプ陣営やトランプ本人が関わったかどうかをロバート・ムラー特別検察官が捜査した結果、トランプの関係者が大勢起訴された。そのなかで、トランプは5人に恩赦を与えた。

大事なのは、彼らが司法妨害や偽証罪など、捜査自体を阻止しようとした罪に問われていた点。捜査妨害に問われていない上、トランプの悪行を議会でも赤裸々に語り、偽証も認めた元側近は恩赦されることもなく、実刑を食らったままだ。つまり、証拠隠滅したり、嘘をついたりしてトランプを守った人を、トランプが恩赦している。倍返しならぬ、恩返しだ!

少なくともそう見える。しかも、これらの恩赦は捜査の最中に、被告人が証言する前にも大統領から仄めかされたケースもあった。「黙ってくれれば、後で恩赦するぞ」と言わんばかりのこの行為自体が、証人買収や司法妨害と考えられる。さらに、公職の権利を使い、自分にとって利益になる行動を引き出すことは賄賂的とも考えられる。少なくとも専門家はそう指摘する。

やっぱりエルサだった

現職大統領は起訴できないが、トランプはまもなく一般人に戻る。脱税や選挙法違反など積もりに積もっている数々の容疑のほかに、このレベル4の恩赦関連容疑でも、逮捕・起訴されかねない。ジョー・バイデン氏がホワイトハウスに入った後、トランプはビッグハウス(=刑務所)に入るかもしれない。

いや、そうはいかない!いろいろやったかもしれないが、トランプは許されるはずだ!
誰に?トランプに!

これからトランプはさらに「いけない恩赦レベル5」を新しく構築するだろう。自分の顧問弁護士や自分の子供、自分の会社の関係者などに予防恩赦を与えた上に、最後は自分自身をも将来の全ての責任追及から守る「完全予防自己恩赦」を与えようとすると、僕は見る。

もちろん、これがもっともやってはいけないもの。大統領を完全に超法規的存在として設置することになるから。これが通るなら、例えば大統領が政敵を手下に暗殺させて、その手下を恩赦した上で自分をも恩赦できることになる。あり得ない!

しかし、あり得るかもしれない。完全予防自己恩赦は、実際にやってみて連邦最高裁が審理し判断するまで、有効となるかどうかわからない。

でもトランプはその未知の旅へ出掛けるだろう。

あらっ。未知の旅へ......?

イントゥ・ジ・アンノウン......?

やはりトランプはエルサだ!

僕、映画の見過ぎだね。

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story