コラム

アメリカ音楽に深く影響を及ぼしていたインディアンの文化『ランブル』

2020年08月06日(木)16時30分

インストでありながら放送禁止になったリンク・レイ Photo by Bruce Steinberg, Courtesy of linkwray.com

<アメリカ音楽は、黒人と白人の図式で語られがちになるが、実はそこにインディアンが深く絡み、影響を及ぼしていることを描くドキュメンタリー>

キャサリン・ベインブリッジ監督の『ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち』は、弾圧されてきたインディアンの文化がアメリカのポピュラー音楽にどのような影響を及ぼしてきたのかを、証言や記録映像で掘り下げていく興味深いドキュメンタリーだ。

本作のタイトルは、ショーニー族の血を引くギタリスト/シンガーソングライターのリンク・レイが1958年に発表した曲「ランブル」からとられている。歪んだギターの攻撃的なサウンドのインパクトは大きく、インストでありながら放送禁止になった。ピート・タウンゼントやジミー・ペイジ、イギー・ポップなど、多くのミュージシャンに影響を及ぼしたことは比較的よく知られている。

そんなリンク・レイを出発点に、チャーリー・パットン、ミルドレッド・ベイリー、バフィ・セイント・マリー、ジミ・ヘンドリックス、ロビー・ロバートソン、ジェシ・エド・デイヴィス、ランディ・カスティーヨなど、ブルース、ジャズ、フォーク、ロックで異彩を放ったミュージシャンたちに光があてられていく。

人種混淆のなかで受け継がれ、剥奪を免れたインディアンの文化

しかし、インディアンの血を引くミュージシャンの音楽と物語を羅列しただけの作品ではない。ポイントになるのは、リンク・レイが紹介されたあとの前半部分の構成だ。

まず、インディアンに対する激しい弾圧、文化の剥奪に触れてから、ニューオーリンズが舞台となり、貧しい地域で行われるマルディ・グラのパレードが映し出される。羽根の衣装を身にまとい、パレードを先導するチョクトー族のミュージシャンによれば、彼の家族はインディアンに対する弾圧から逃れるためにこの街に来て、普段はみな黒人として生活している。インディアンだとわかれば保留地に送られてしまうからだ。

モーホーク族の血を引き、シックス・ネイションズ保留地で育ったロビー・ロバートソンの証言からは、それとは反対の関係もあったことがわかる。逃亡奴隷が保留地に逃げ込み、インディアンが黒人たちを歓迎してかくまい、やがて彼らの間に子供が生まれた。

さらに、タスカローラ族の血を引く歴史家/遺伝学者が、インディアンと黒人の歴史を掘り下げる。白人の入植者は最初にインディアンを奴隷にしようとしたが、彼らは逃亡し反撃してくる。そこで奴隷を輸入することにし、インディアンの男たちはアフリカなどに送られ、代わりに黒人奴隷が運ばれてきた。その奴隷の9割は男でインディアンと結婚した。だから南北戦争以前の黒人はインディアンの先祖を持つ人が多いという。

インディアンの文化は、そうした人種混淆のなかで受け継がれ、剥奪を免れた。本作はそれを音楽で確認しようとする。ニューオーリンズにつづくエピソードは、本作で最も重要な部分といえるかもしれない。

プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独失業者、4月は予想以上に増加 失業率5.9%で横

ビジネス

基調的な物価など重点解説、YCCの定量評価も=日銀

ビジネス

仏GDP、第1四半期は前期比+0.2%に加速 消費

ビジネス

アングル:大規模な介入観測、投機の円売り抑える 効
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story