コラム

なぜ日本は「昭和」のままなのか 遅すぎた菅義偉首相の「デジタル化」大号令

2020年09月22日(火)12時15分

日本のテクノロジーが燦然と輝いたあの日々はどこへ(2006年、携帯向けインターネットサービスi-modeを搭載した第3世代携帯FOMAを宣伝するNTTドコモ。)  Issei Kato-REUTERS

<「テクノロジー大国」から「デジタル後進国」に転落した日本>

[ロンドン発]菅義偉首相が主要政策の3本柱として掲げるのが新型コロナウイルス対策、行政改革・規制改革、そしてデジタル化である。かつて「テクノロジー大国」として世界中から称賛された日本は今や「デジタル後進国」になってしまったと言っても過言ではない。

先日、日本に帰任した駐在員は海外転入届のため本籍地の役所から戸籍謄本や附票の写しを取り寄せる手続きの煩雑さをフェイスブックでこぼしていた。デジタル化していないので手数料を郵便為替で送らなければならないし、現住所証明がいるという。転入届を済ます前にどうやって現住所を証明できるのかとその駐在員はおカンムリだった。

海外暮らしが通算15年近くになった筆者も日本の「目に見えないデジタル国境」に何度も煩わしい思いをさせられている。筆者のような非居住者は国税の電子申告・電子納税ができない。非居住者自身による確定申告書の提出は原則、日本では認められていないからだ。

そこで税理士に頼んで日本国内での手続きをしてもらっているのだが、高齢なのでいつまでお願いできるか心許ない。前の税理士とは電子メールでやり取りできず、日本に帰国した際あいさつにおうかがいして「まだ大丈夫」との感触を得ていたのだが、高齢を理由に突然廃業され、次の税理士を探すのに一苦労した。

「日本人も日系企業も慎重過ぎる」

ロンドンを拠点に活動する筆者はアジアや欧州で開かれるテクノロジーイベントにできるだけ足を運んでいるが、日本の存在感低下を痛感させられる。上海でもシンガポールでも「日本人も日系企業も慎重過ぎる」「経営判断が遅い」という耳の痛い批判を中国人や東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国のビジネスマンから何度も聞かされた。

一昔前まで日本のテクノロジーはあれほど燦然と輝いていたのに、一体どうしたというのだろう。日本にはアメリカの「GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)」に匹敵するグローバルなテクノロジー企業が育っていない。第5世代移動通信システム(5G)の開発競争でも中国や韓国の後塵を拝している。

2002~03年、米ニューヨークに社費留学した時、日本ではすでにNTTドコモの「iモード」の全盛時代を迎えていたのに、アメリカではまだ表示画面のあるポケットベル「ページャー」が使われていたので随分、遅れているなと驚いたことがある。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマス、カイロに代表団派遣 ガザ停戦巡り4日にCI

ワールド

フランスでもガザ反戦デモ拡大、警察が校舎占拠の学生

ビジネス

NY外為市場=ドル/円3週間ぶり安値、米雇用統計受

ビジネス

米国株式市場=急上昇、利下げ観測の強まりで アップ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story