コラム

ユヴァル・ノア・ハラリ×オードリー・タン対談(3/3)──市民の力で新型コロナウイルスを克服した台湾モデルが世界に希望をもたらす

2020年07月17日(金)11時55分
ユヴァル・ノア・ハラリ×オードリー・タン対談(3/3)──市民の力で新型コロナウイルスを克服した台湾モデルが世界に希望をもたらす

台湾のIT推進大臣オードリー・タン氏(左)と歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏(右) Yuval Noah Harari-YouTube

<3回に分けて掲載してきた対談の最終回。歴史学者ハラリ氏と、台湾のIT推進大臣タン氏が、異なる立場から共通の価値観を引き出す「平和のためのイノベーション」を語る>

エクサウィザーズ AI新聞(2020年7月12日付)から転載

第1回:ユヴァル・ノア・ハラリ×オードリー・タン対談(1/3)──「ピンクのマスクはカッコいい」、誰もがルールづくりに参画できる社会の到来
第2回:ユヴァル・ノア・ハラリ×オードリー・タン対談(2/3)──母親より自分のことを知る存在にどう対処すべきか

◇ ◇ ◇

分散型台帳と市民の参加

Puja Ohlhaver(司会者) 話を少し変えましょう。現在のCOVID危機を考慮して、世界的な問題について話をしましょう。ユヴァル、あなたの世界的危機のリストには、AI、気候変動、核兵器が含まれています。そのリストにパンデミックを追加したかどうかは知りませんが。

この危機の驚くべき点の一つは、台湾がここで例外的なパフォーマンスを発揮したことです。都市封鎖なしにウイルスの拡散を抑えました。台湾にとっては成功ストーリーであるわけですが、世界的にも大きな関心事だと思います。

オードリー、あなたに質問ですが、台湾の成功はどのような話だったのでしょうか?台湾人をまとめ上げたのは民族主義的なアイデンティティーの共有だと思いますか?この成功を世界中で再現するためには、これから何を学べばいいのでしょうか?

タン 実は同時に2つの危機があります。1つはパンデミック、生物学的な危機です。もう1つは、不安、恐怖、暴挙、陰謀論、パニック買いなどがあります。これらのことを「情報感染」と呼びます。 

もし陰謀論を耳にし、そして国が心のワクチンを提供しない状態、つまり基本的な科学的理解のためのコミュニケーション材料を積極的に出していない状態であれば、人々は実際に何が起こっているのか分からなくなり、認識論的な空虚感に苦しむことになるでしょう。そうなれば、ぽっかりあいた穴を陰謀論のような思い込みで埋める可能性があります。人々をより分裂させ、事態をさらに悪化させる結果になります。

台湾では非常に早い段階で、「速く、公平に、楽しく」という原則を確立しました。「速く」についてはお話した通りです。対策パンデミック戦略について関心のある人は1922に電話すれば、あらゆる質問に答えてもらえます。

あるいは、もっと詳細な質問をしたい記者たちには、毎日の午後2時のブリーフィングの機会を用意しました。しかしそれでも人々の恐怖心を鎮めるには、十分ではありません。例えばウイルス対策製品やマスク不足などの恐怖があり、マスクがコンビニや薬局で配布され始めた頃は、かなり早い段階からパニック買いが起こっていました。

そんな中、台南市のハワード・ウーという名前の市民技術者が、非常にシンプルなサイトを開発しました。彼は友人や家族を招待して、街のどの部分にまだマスクがあるかを報告するための地図のサイトを開発したのです。 緑色の部分はまだマスクの在庫があるお店で、赤いものは在庫がなくなった店舗です。

この非常に単純な仕組みによって、どの店で並ぶことが無意味で、どの店で並ぶことに意味があるのかを知ることができるようになりました。ただ彼は、このサイトが全国的な注目を集めることになるとは予想していませんでした。全国的に報道されると、彼は非常に迅速にウェブサイトを閉鎖しなければなりませんでした。彼はGoogle Map APIを使用していたのですが、全国的に有名になったわずか2日後には、20,000ドルものGoogle Mapの利用料金が発生してしまったからです。

彼のアプリを使っている人の一人が私でした(笑)。そこで私は首相に話をして「人々を信頼して、データをオープンにする必要があります」と訴えました。

このことは、オープンデータやオープンAPIを追求してきた台湾の歴史の中で、最も興味深い出来事の1つになりました。薬局でのマスクの配給に切り替えた際に、台湾の人口の99.99%をカバーする国民健康保険証を専用の機械に提示すれば、誰でもマスクを受け取ることができるようになりました。

その機械は、30秒ごとにすべての薬局の在庫レベルを公開するマシン・ツー・マシン・システムになっています。この機械からのデータを基に、100人以上の市民技術者が地図、チャットボット、音声アシスタントなどを開発しました。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。

ニュース速報

ワールド

プーチン氏、バイデン氏の息子巡る疑惑否定 トランプ

ワールド

スペインが再び全土に緊急事態宣言、夜間外出禁止や移

ワールド

新型コロナワクチンの有効性、12月初めまでに判明=

ワールド

EXCLUSIVE-中国アリババ傘下のアント、上海

MAGAZINE

特集:日本人が知らないワクチン戦争

2020-10・27号(10/20発売)

全世界が先を争う新型コロナのワクチン確保 ── その最前線と日本の開発が遅れた本当の理由

人気ランキング

  • 1

    世界が騒いだ中国・三峡ダムが「決壊し得ない」理由

  • 2

    決壊のほかにある、中国・三峡ダムの知られざる危険性

  • 3

    金正恩「女子大生クラブ」メンバー50人が強制労働送りに

  • 4

    中国はトランプ再選を願っている

  • 5

    中国・青島市で冷凍食品から新型コロナウイルスが検…

  • 6

    欧州コロナ第2波が深刻化 オランダは医療逼迫で患者…

  • 7

    中国政府のウイグル人弾圧をめぐって、国連で再び各…

  • 8

    イタリア政府、ファーウェイと国内通信企業との5G…

  • 9

    「トランプの再選確率、討論会後に小幅上昇」英ブック…

  • 10

    アフターピル市販で「性が乱れる」と叫ぶ人の勘違い …

  • 1

    世界が騒いだ中国・三峡ダムが「決壊し得ない」理由

  • 2

    スリランカが日本支援のライトレール計画を中止したのは......

  • 3

    決壊のほかにある、中国・三峡ダムの知られざる危険性

  • 4

    中国のネットから消された「千人計画」と日本学術会…

  • 5

    中国・青島市で冷凍食品から新型コロナウイルスが検…

  • 6

    インドネシア大統領ジョコ、米国の哨戒機給油要請を…

  • 7

    菅首相、訪問先のインドネシアで500億円の円借款供与…

  • 8

    グアムを「州に格上げ」して中国に対抗せよ

  • 9

    新型コロナ、スウェーデンは高齢者を犠牲にしたのか

  • 10

    対中デフォルト危機のアフリカ諸国は中国の属国にな…

  • 1

    世界が騒いだ中国・三峡ダムが「決壊し得ない」理由

  • 2

    スリランカが日本支援のライトレール計画を中止したのは......

  • 3

    韓国ネット民、旭日旗めぐりなぜかフィリピンと対立し大炎上に

  • 4

    日本学術会議は最後に大きな仕事をした

  • 5

    金正恩「女子大生クラブ」主要メンバー6人を公開処刑

  • 6

    習近平、中国海兵隊に号令「戦争に備えよ」

  • 7

    その数333基、世界一のダム輸出国・中国の「無責任」

  • 8

    注意喚起、 猛毒を持つふさふさの毛虫が米バージニア…

  • 9

    決壊のほかにある、中国・三峡ダムの知られざる危険性

  • 10

    中国のネットから消された「千人計画」と日本学術会…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!