コラム

「シリコンバレーの太陽」とまで称された「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」に対する海外の評価を集めてみた

2019年09月17日(火)18時00分

その頭文字を取ってGAFAと呼ばれるGoogle、Apple、Facebook、Amazonなどのテクノロジー大手がいずれ全産業を支配するようになるという未来シナリオも、1つの領域での成功を足がかりにし、より多くのデータを求めて周辺領域に乗り出すというメカニズムをベースにした予測だ。

これこそがAIビジネスのメカニズムである。なので、1つの領域で伸び代がないほどに成功した大型ベンチャー企業でも、大量の資金さえあれば、周辺領域でさらなる成長が見込めるのだ。そう考えると、上場直前の大型ベンチャー企業に投資するビジョンファンドの考え方は、理にかなっていると言える。

多くのベンチャーキャピタルは、インターネットの普及期に誕生、成長してきた。ネットの黎明期において、何が成功するのか分からなかった。びっくりするほど急成長する企業も出てきた。であるならば、1社当たり少額の資金を無数のベンチャー企業にばらまき、その中から1社でも2社でも大化けすればいい。そういう考え方さえ登場した。

しかしAI時代という新しいフェーズに入り、戦いのルールがWinner takes allに変わった。1つの領域で大成功した企業が、周辺の領域さえも飲み込んでいく。1つの領域での覇権を手にした時点でその企業を支援すれば、その企業は周辺企業も巻き込んでさらなる大成功へと成長していく。1つの領域で成功した企業を支援するほうが、確実に利益を上げられる。ビジョンファンドは、この新しい投資手法の有効性を証明しようとしているのかもしれない。

技術は米中、ビジネスモデルはアジア、日本は投資

そう考えると、AIを軸にした新たな世界のビジネス勢力図が見えてきたように思う。

技術の最先端は、米中の2強時代に入った。AIがらみの特許件数を見ても、中国が米国に追いつき、追い抜こうとしているのが分かる。

ビジネスモデルは、アジアの新興国の間で生まれてくるのだろう。先進国は、既存のしがらみや規制があって、新たなビジネスモデルが生まれにくいからだ。Grab社が東南アジアで斬新なビジネスモデルを次々と展開しようとする中で、日本ではタクシー配車アプリのUberの参入がほぼ失敗に終わった。先進国で、新しいビジネスモデルが成功することの難しさを物語っている。

では日本の役割はどうなるのか。投資になるのではないかと思う。金融関係者によると、ビジョンファンドの2号ファンドには日本のほとんどの大手金融機関が参加しており、「オールジャパン」の体制になっているのだとか。

技術は米中、ビジネスモデルはアジア、日本は投資。これがAI時代の世界のビジネス勢力図になるのではないかと思う。

【著者からのお知らせ】
二歩先の未来を作る少人数制勉強会「湯川塾」。次回50期は「起業家の履歴書」がテーマ。著名起業家の知られざる過去の修羅場について徹底的に質問します。
http://thewave.teamblog.jp/archives/1075706053.html

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国人民銀、住宅ローン金利と頭金比率の引き下げを発

ワールド

米の低炭素エネルギー投資1兆ドル減、トランプ氏勝利

ワールド

パレスチナ自治政府のアッバス議長、アラブ諸国に支援

ワールド

中国、地方政府に「妥当な」価格での住宅購入を認める
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story