コラム

「悟りってどんな状態?」悟った50人に心理学的手法で詳しく聞いてみた結果とは(TransTech Conferenceから)

2019年02月07日(木)17時30分

一方で、PNSEのより深い段階に達している人の外部刺激に対する反応は大きく異なる。穏やかな気候のときに大学のキャンパスでインタビューしているときのこと。何人かの女子学生が芝生の上で水着姿で日向ぼっこをしていた。被験者(男性)が水着姿の女子学生をちらっと見たので、Martin博士が、頭の中で何が起こっているのかを被験者にたずねた。そうすると被験者は、自分が女子学生の方向をときどき見ることは分かっているが、その後、心の中に何も変化がないと答えたという。自己分析してもらうと、女子学生を無意識に見るのは、生殖に関する深いレベルに組み込まれた反応ではないだろうかと答えたという。

PNSEの中間から後ろの段階の何人かの被験者は、こうした認知プロセスのレベルの1つ1つの反応を認識できると答えている。生殖に関する本能のような反応から、身体的、思考的、感情的な反応まで、認知のレベルを順に認識できて、自分の反応がどのレベルから来ているのかが分かるという。一方でPNSEの初期段階の被験者は、認知プロセスを細分化して認識できず、1つの反応として捉えているようだ。

またPNSEの段階が進めば進むほど、外部刺激に対する反応を自分でコントロールできるようになるという。そして最終段階になれば外部刺激に反応することがほとんどなくなるので、反応をコントロールする必要もなくなる。外部刺激にただ気づくという反応になるらしい。

減少する記憶

被験者全員が、過去の記憶はもはや重要ではなくなったと答えている。自分の過去の記憶に興味がなくなると同時に、ほかの人の過去のストーリーにも興味がなくなる。映画などの趣味も変わるという。

雑念が減少するに伴って、過去の出来事をふと思い出すことも少なくなるようだ。何人かは記憶障害になったのではないかと思うそうだが、実際に過去の出来事について質問すると、ほとんどの被験者は問題なく思い出せるようだ。

特にPNSEの最終段階では、短期、中期の記憶を思い出すのが困難になると語る被験者が多いという。

PNSEには誰でも入れる

さて悟った人の意識状態がどういうものなのかは分かった。Martin博士は次に、通常意識の人が何をすればPNSEに入ることができるのかを調べた。その結果、「一般的に思われているほどPNSEに入るのは難しくない。自分に合ったアクティビティさえ見つけることができれば、多くの人がPNSEに入れる」という結論になったという。「PNSEに入ることよりも、入ったあとで、新しい意識と自分の人生の折り合いをつけることの方が、よほど大変だ」と同博士は指摘する。

これは僕もそう思う。一般的には、臨死体験をするか、座禅や瞑想などの修行を長年繰り返さなければならない、と信じられている。でも僕がこれまで「この人はPNSEに入っているな」と思う人のほとんどは、臨死体験をしたわけでもなく、座禅の長年の実践者でもない。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アップル、1─3月業績は予想上回る iPhoneに

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、円は日銀の見通し引き下げ受

ビジネス

アマゾン第1四半期、クラウド事業の売上高伸びが予想

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story