コラム

DataRobot使ってAI予測モデル4000個完成。リクルート社内で進む人工知能ツールの民主化

2017年03月22日(水)18時15分

一度、DataRobotのデモを見せてもらったことがある。

米国では一度退院した患者の症状が悪化し、再入院するケースが増えており、社会問題化しているといわれている。病気が完治していないにもかかわらず患者を追い出しているのではないかという批判が、病院に向けられているからだ。そこでどういう検査結果の人に、どういう処置を取れば患者の再入院率を低下させることができるのか。再入院率を予測するモデルをDataRobotが作るところを実際に見せてもらった。

入力するのは患者の年齢、性別、病気の種類や症状といった患者の属性データに加えて、病院側で行った処置のデータ、そして30日以内の再入院の記録などのデータだ。

操作は簡単。データのファイルをマウス操作でドラッグ・アンド・ドロップするだけ。あとはDataRobotが自動的に統計処理し、再入院した患者にはどのようなデータのパターンがあるのかを認識する。例えば高齢の男性で生活習慣病の患者は、投薬処置だけだと再入院する人の割合が◯%だということが分かる。

つまり同様の属性の患者に投薬処置するだけでは◯%の確率で再入院する可能性があると予測できるわけだ。

こうした統計処理を、いろいろな統計の手法で試してくれる。どれだけ早く予測モデルができるのかは、クラウド上のサーバーを何台使うかに左右されるが、私の見たデモは20台のサーバーを使っていたので、いろいろな統計のアルゴリズムがどの程度の精度になるのかという計算が目の前で次々と行われた。その様子は、まさに圧巻。人間の専門家が処理すれば数カ月かかりそうな計算を、DataRobotがものの数分でやってのけたのには驚いた。

半年で4000強の予測モデル

この脅威のツールをリクルートは全社員に提供したのだ。同社RIT推進室の元室長、石山洸氏によると、社員に対して簡単な研修を行っただけで導入から約半年間で4855個の予測モデルが誕生。うち約80%は、一般社員が開発した予測モデルだという。

またグループ社内のどこにどのようなデータがあるのかを検索するデータ・ディスカバリー・システムを、シリコンバレーのAI研究所と本社の開発者チームが一丸となって、わずか半年で構築。GoogleやAppleが持つような世界最先端のシステムを手にしたという。このシステムにより、これまで煩雑な手続きを通じて入手するのに数カ月もかかっていたようなデータを、数分で入手できるようになった。データ利用者もこれまでの数百人規模から、数千人規模に膨れ上がったという。

AIの民主化が一気に広がったわけだ。

【参考記事】人工知能が経済格差と貧困を激化する

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ウェルズ・ファーゴCEO、信用状況「極めて良好」 

ワールド

中国とロシア、国連人権予算に繰り返し圧力 非営利団

ビジネス

ネットフリックス、四半期利益が予想届かず 株価約6

ビジネス

VW、生産休止計画 ネクスペリア半導体供給問題とは
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない「パイオニア精神」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 6
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 7
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    増える熟年離婚、「浮気や金銭トラブルが原因」では…
  • 10
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story