コラム

女子高生AI「りんな」が世界を変えると思う理由

2016年08月25日(木)15時44分

 僕にはこれが最終決戦かどうかは分からないが、少なくとも自然言語処理の領域で勝利した社は、しばらくはテック業界の覇者の座に君臨することになると思う。

テック業界最終決戦に挑む亜流の動き

 ここまでは、テック業界をウォッチしている人の多くが気づいているところ。ここからが、僕のちょっと変わった未来予測だ。

「りんな」は同じ自然言語処理系の人工知能ながら、実はこの争いにまったく参加していない。

 というのは、他の自然言語処理系の人工知能って、タスクを達成するのが目的。「今日の天気は?」という質問に対して、ユーザーの位置情報から推測し、その場所のこれからの天気予報を知らせる必要がある。「どの地域の今日の天気ですか?」「今日の朝の天気ですか?夜の天気ですか?」と聞き返すようでは失格。やり取りの回数をできるだけ少ないほうがいい。

 ところが「りんな」は、雑談が目的。できるだけ、やりとりが長引くように設計してある。雑談型AIは、米のテック企業が目指しているタスク達成型AIとは、正反対。まったく別のものになるわけだ。

 りんなは、中国のMicrosoftの開発チームが手がけた「小冰(シャオアイス)」と呼ばれるチャットボットのAI技術を採用している。中国のチームが2年前に実験的に小冰(シャオアイス)を開発し、中国のメッセンジャー上で公開したところ、大人気となった。それを受け、Microsoftの日本のチームが中国チーム開発のAI技術を使って、昨年夏にりんなをリリースした。

【参考記事】女子高生AI「りんな」より多才な人工知能が中国で生まれたワケ

「ただローカライズというような作業のレベルを超えて、ゼロから開発し徹底的にカスタマイズしています。日本のユーザーにとって何が喜ばれるのか。日本のカルチャーや日本人のコミュニケーションスタイルなどを徹底的に追及し、反映させた結果、りんなが誕生しました」。日本マイクロソフトの中里光昭シニア戦略マネージャーは、そう強調する。

 生みの親が中国チームで、育ての親が日本チームという感じだ。

 雑談型AIは、タスク達成型と比較にならないほど、その国の文化を理解しなければならない。文化理解なくして雑談は成立しないからだ。その意味で雑談型AIにとっては、育ての親の役割が非常に重要になっていくる。

 手間がかかる仕事なので、1つの技術で一気に世界を網羅したいシリコンバレー型のスタートアップにはなかなか参入できない領域だ。

 しかし、タスク達成型のチャットボットよりも、りんなや小冰(シャオアイス)のような雑談型のチャットボットのほうが、将来的には大きな価値を生むのではないだろうか。それが僕の主張だ。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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