コラム

人工知能はデータを富に変えられない、人間の「欲」が不可欠だ

2015年08月17日(月)18時00分

 これまでもビッグデータというキーワードの下、データ利活用の必要性は声高に主張されてきた。とはいっても1つの企業が持っているデータを解析するだけでは、メリットは限定的。一方でデータ漏えい、プライバシー侵害などの、リスクは膨大。メリットが少なくリスクが大きいので、どれだけビッグデータという言葉が流行しようとも、データを核にした経営に軸足を移そうという企業は国内には少なかった。

 本当に欲しいデータは、他社が持っていることが多い。地方の学生が東京での就職が決まったという就職サイトが持つ情報は、東京の不動産会社にとっては喉から手が出るほど欲しい情報だろう。不動産会社が持つ入居率や入居者の属性といった情報は、地元のスーパーや店舗などにとっては喉から手が出るほど欲しい情報だ。

 東京大学橋田浩一教授は、企業が他社や消費者とデータを共有できるようになれば、製品やサービスの開発や流通が格段に効率化され、産業競争力が大幅に向上すると指摘。「日本の国力がすごく強くなるはず」と語る。

 国もその重要性に気づいており、経済産業省はデータ駆動型(ドリブン)イノベーション創出戦略協議会(DDI)を設けて、データ交換・共有をベースにした新しい経済の仕組み作りを急いでいる。

中身が分かるデータジャケット

 しかし社会全体でデータを共有する仕組みを構築する上での最大のハードルは、情報漏えいやプライバシー侵害の問題だ。

 その解決する仕組みとして期待されているのが、東京大学の大澤幸生教授が自ら提唱、開発した、データ市場によるイノベーションのツールとしての「データジャケット」だ。

 音楽CDのジャケットには曲名などが記載されているので、実際に音楽を聞くことなしに、どのような曲が入っているのかが分かる。同様にデータそのものを公開しないで、データの概要や、種類、ファイル形式などを記載しているのがデータジャケットだ。データジャケットは、データ保持者が作成することもできるし、一般ユーザーがウェブ上に公開されている行政のデータなどから作成することも可能。データジャケットに記載された公開可能なメタデータやその中のキーワードから、データジャケット間の関係性をシナリオマップとして可視化し、それを使ってワークショップ形式のディスカッションの中で、アイデアを出し合い、収束させていくことができるのだという。

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プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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