コラム

トランプ政権が残した「台湾救済」という功績

2021年01月19日(火)15時30分

台湾は世界的な要衝にある(写真は蔡英文総統)ANN WANGーREUTERS 

<地政学的な要衝である台湾を国際社会へ復帰させる道筋を示したトランプ政権。その遺産はインド太平洋地域における真の安全保障につながる>

トランプ米大統領がホワイトハウスから去って行くに当たり、改めて彼のレガシーを考えてみたい。その1つが台湾を再び国際舞台に引き戻そうとした戦略だ。

膨張し続ける専制主義国家・中国が世界に与える悪影響をどう防ぐかという課題に取り組むため、アメリカのトランプ政権と安倍晋三前首相は「自由で開かれたインド太平洋」の構築を目指してきた。日本側は当初、安倍自身の意向やブレーンたちの提案に基づき「インド太平洋戦略」と表現していた。この戦略にアメリカ側から「自由で開かれた」との枕ことばが冠されたと、筆者は以前アメリカで聞いたことがある。

しかし、世界に打って出ようとする中国政府は早速「戦略」にかみついた。冷戦思考的な表現だとして日本側に「撤回」を働き掛けたり、親中派を動かしたりした。安倍も親中派の重鎮政治家に配慮するかのように、いつのまにか「戦略」をやめて「構想」にトーンダウンしていた。

菅義偉首相になると、安倍政権が目指してきた地球儀俯瞰外交よりも、内政に集中するようになった。中国・武漢発の新型コロナウイルスによる猖獗(しょうけつ)に対応せざるを得なくなったからだろう。

折しも次期米大統領に決まったバイデン前副大統領の周辺も対中政策の変更案を練り始めた。バイデンはよりソフトな対中路線に舵を切るのではないかと予想されるなかで、菅首相は「自由で開かれた」よりも、「平和で繁栄した」とのフレーズを多用するようになった。彼はモリソン豪首相やASEAN(東南アジア諸国連合)との首脳会議で、安倍やトランプがそろって口にしていた言葉を完全に忘れたかのように振る舞った。

だが、「自由で開かれ」ようと「平和で繁栄」しようと、インド太平洋の要を占めるのは言葉遊びをしている日本ではなく台湾だ。ある意味、世界的な要衝である台湾を国際社会へ復帰させる道筋を修復したことこそが、トランプ政権の大きな功績ではないか。そう考える理由は2つある。

第1に、中国が世界にもたらしたパンデミック(世界的大流行)への対応において、台湾の防疫モデルが先進国より優れていたことは誰も疑わない。トランプ政権は米高官を派遣して台湾の衛生当局と交流し、WHO(世界保健機関)の理念に合った政策を各国に広めようとした。

第2に、トランプ政権は実質的に大使館機能を持つ米国在台湾協会(AIT)の役割を強化し、台湾の防衛力を高めるために武器供与を積極的に行ってきた。また実現はしなかったが、1971年に台湾が国連を脱退して以降初めて、アメリカの国連大使が台北を訪問する計画もあった。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豪サントス、アブダビ国営石油主導連合が買収提案 1

ワールド

韓国、第2次補正予算案を19日に閣議上程へ 景気支

ワールド

米の日鉄投資計画承認、日米の経済関係強化につながる

ワールド

米空母、南シナ海から西進 中東情勢緊迫化
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story