コラム

モンゴルとロシアに学ぶ新型コロナ対策の真髄

2020年04月22日(水)16時00分

プーチン大統領の新型コロナ対策は、迅速かつ強硬だった Alexei Druzhinin/Sputnik/Kremlin-REUTERS

<早期の強硬な措置によって感染リスクを抑え込んだモンゴルとロシア、両国の判断は中国と国境を接してきた歴史と経験の産物>

中国・武漢市を発生源とする新型コロナウイルスによる肺炎が世界規模で猖獗(しょうけつ)を極めている現在、東アジアの島嶼国である日本と西欧、それに「新大陸」のアメリカがその撲滅に苦労している。対照的なのはユーラシア大陸だ。実際の様子を見てみよう。

まずは陸地で数千キロにわたって中国と国境を接するモンゴル国。中国南部で新型コロナウイルスが流行したとのニュースが伝わると、1月27日に国境地帯を全て封鎖した。航空便だけでなく、列車と自動車など中国との交通を全面的に遮断し、人的交流を止める強硬措置を取った。

ただ、そのままでは独裁的な隣国の気難しい指導者の機嫌を損なう恐れがある、とみたモンゴル国は最高指導者が北京を訪問した。これまでも例えば、中国が敵視するチベット亡命政権の指導者ダライ・ラマ14世の宗教的な訪問をモンゴルが受け入れただけで、中国は国際列車を止め、交流を制限するなどの嫌がらせを繰り返してきたからだ。

以前のような「復讐」を避けようとして、モンゴルの大統領バトトルガは2月27日、専用機で首都・北京の空港に降り立った。世界の指導者たちが誰も習近平(シー・チンピン)国家主席に近づこうとしなかった「困難な時期」に来訪した草原の国の指導者を北京は「外交の成功」として位置付けた。バトトルガは「中国人民への見舞いとして、ヒツジ3万頭を贈る」と述べてウランバートルに戻った。日帰りの北京訪問だったが、自国民を安心させるため、大統領とその随員たちは帰国後2週間、病院で隔離に入り、外部との接触を絶った。

「匈奴人や蒙古人はいつも家畜を追って来て、わが中華の文明的物質を欲した」と、中国のSNSに書き込む者もいたが、瞬時に削除された。「敵はウイルスを持ち込んだアメリカだ」と宣伝している時期にあって、中国も北の隣人をけなすわけにはいかない。

次はロシアだ。モスクワの国立研究所に勤める知人によると、ロシアはそもそも「キタイ(ロシア語で中国)」を最初から信用していない。社会主義が崩壊した後も、かたくなにマルクス・レーニン主義を信奉し、スターリン思想を中国流独裁体制の強化に悪用する北京の政治家たちを「頭がどうかしている」と理解している。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ハセット氏のFRB議長候補指名、トランプ氏周辺から

ビジネス

FRBミラン理事「物価は再び安定」、現行インフレは

ワールド

ゼレンスキー氏と米特使の会談、2日目終了 和平交渉

ビジネス

中国万科、償還延期拒否で18日に再び債権者会合 猶
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 6
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 7
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 8
    世界の武器ビジネスが過去最高に、日本は増・中国減─…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 6
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story