コラム

モンゴルとロシアに学ぶ新型コロナ対策の真髄

2020年04月22日(水)16時00分

冷徹なプーチン大統領は以前から、シベリアの森に隠れて暮らす100万人とも150万人とも推算される中国からの不法移民の存在に不安を感じていた。「ウイルスを持ち込んだキタイスキー(中国人)を本国へ!」との国民の声も強まるなか、ロシアは軍や警察の協力で感染防止に乗り出し、中国人たちは厳寒のロシアから帰還。その結果、「人民の『戦疫(役)』に勝った」と宣言していた中国でじわりと感染者数がまた増加し始めた。国外からの逆流、それもロシア極東を経由して最近、東北地方に帰国した人々の中に、新たな感染者が増加しているとの報道がある。

モンゴルとロシアが迅速かつ強硬な手段に出たのは、これまでの経験があるからだ。ほぼ毎年のように、夏になるとステップ地帯で小規模のペストが発生する。遊牧民や猟師はモルモットの一種でペストを媒介するタルバガンを捕獲して食べ、その毛皮を交易に回す。14世紀にイタリアまで広がった黒死病もペスト菌が原因と考えられている。ペスト出現の一報に接すると、直ちに封鎖・隔離・治療の措置が取られ、大きな被害に発展したことはなかった。

中国を手玉に取るモンゴルにせよ、あくまで厳しい措置を貫くロシアにせよ、経験豊かな両国に比べると、習近平政権の隠蔽政策に翻弄される日本とアメリカの感染症対策は評価できるものではない。

<本誌2020年4月28日号掲載>

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2020年4月28日号(4月21日発売)は「日本に迫る医療崩壊」特集。コロナ禍の欧州で起きた医療システムの崩壊を、感染者数の急増する日本が避ける方法は? ほか「ポスト・コロナの世界経済はこうなる」など新型コロナ関連記事も多数掲載。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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