コラム

中国建国70年、異例の「3回目の軍事パレード」を強行する理由

2019年09月30日(月)15時55分

本番さながらのパレードの予行演習(9月25日) NAOHIKO HATTA-POOL-REUTERS

<10月1日の建国70周年式典で「過去最大」の閲兵式を行うのは、内憂外患の習近平にはほかに選択肢がないからだ>

10月1日の建国70周年で「古希」に達する中国は、この日に大規模な閲兵式を実施しようと着々と準備してきた。内容については8月下旬まで正式発表をしなかったものの、「新中国で最大規模になる」と北京のシンクタンク研究者は話していたし、市民もそう予想していた。

9月21日の深夜からは、本番さながらの予行演習が天安門広場を中心に行われた。市内の一部幹線道路を「戒厳状態」にして、戦車と兵器の運搬車両を通過させた。シンクタンク関係者によると、最新の多弾頭型大陸間弾道ミサイル(ICBM)の「東風41」が披露されるという。アメリカ本土を射程に収める最新兵器だ。

軍事パレードの実施とその意義について、これまで積極的に国内外に説明してこなかったのは、習近平(シー・チンピン)体制が難題を多数抱えているからだ。この時期に大規模なパレードを行う大義名分がどこにあるのか。一党独裁政権とはいえ、その根拠は決して明らかではない。

まず、社会主義市場経済を基本とする中国は、国有企業への資金注入の停止など抜本的な構造改革をする気が全くない。米中貿易戦争の開始以来、経済状況は悪化の一途をたどっている。

アフリカ豚コレラの流行などにより、豚肉の価格高騰が市民の食卓を直撃。南部の広西チワン族自治区などでは豚肉の配給券が印刷されている。物資が極端に不足していた文化大革命期、中国では買い物に貨幣のほか配給券が欠かせなかった。その時代さながらの状態が続いているのだ。そして、複数の大都市部では不動産の価格も下落し、新車の販売台数も軒並み伸び悩んでいる。軍事パレードなんかやっている場合じゃない、という声も市民から聞こえている。

毛沢東を除き、最高指導者の在任期間中に複数回にわたって軍事パレードを実施するのも例外といえる。習は既に2015年9月と2017年に2度、閲兵式を行っている。江沢民(チアン・ツォーミン)元主席と胡錦濤(フー・チンタオ)前主席も建国50周年と60周年に閲兵式を行ったが、それぞれ1回だけだった。

2015年は今や刑務所暮らしの朴槿恵(パク・クネ)・前韓国大統領や、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領らが参列。先進国では日本を除くG7各国が代表団を派遣して花を添えた。というのも、このパレードは「抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利70周年」を祝うのが目的だったからだ。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ベトナム次期指導部候補を選定、ラム書記長留任へ 1

ビジネス

米ホリデーシーズンの売上高は約4%増=ビザとマスタ

ビジネス

スペイン、ドイツの輸出先トップ10に復帰へ 経済成

ビジネス

ノボノルディスク株が7.5%急騰、米当局が肥満症治
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story