コラム

マクロンは「朝貢」訪中で、人権にも触れず馬脚を現した

2018年02月03日(土)11時00分

北京の美術館を訪問したマクロン大統領(1月9日) REUTERS

<中国マネーの前に去勢馬のように手なずけられた? 習近平の父祖の地に駆け付けたフランス大統領の思惑とは>

馬克龍――。「龍に克つ馬」という、内陸アジアのモンゴル人やチベット人、トルコ系カザフ人などが喜んで付けそうな格好いい名前である。

だが、この名を冠した人物は遊牧民ではなく、フランスのマクロン大統領だ。もっともこの漢字名を授けたのは彼の両親ではなく中国人。欧米の政治家にいかにも中国人らしい音を当てただけだ。

ちなみにトランプ米大統領に関しては、中国は「特朗普」と呼ぶのに対し、台湾は「川普」と表記。両者に「統一」する意思はないらしい。

「馬克龍」については中台が足並みをそろえたものの、音を当てることに夢中なあまり、中国のシンボルの龍が負けることには思いが至らなかったようだ。

1月8日から3日間にわたって中国を訪問したマクロンは滞在中、ずっと自分らしさを崩さなかった。彼は首都の北京ではなく、陝西省の省都・西安を最初の訪問地として選んだ。西安は古都長安から発展しており、共産主義の今の中国よりも古きよき中国のほうが好きだ、というシグナルを送ったとの解釈も見られた。

一方、陝西省は習近平国家主席の父祖の地でもある。大国フランスの大統領が「朝貢」に訪れたことを「習家の故郷に花を添える行為」として宣伝したい北京の思惑が働いたとも報じられている。果たしてマクロンの真意はどこにあるのだろうか。

西安城内に入るや否や、マクロンが真っ先に視察したのは中国側が準備した秦の始皇帝の兵馬俑ではなく、回民街だった。回民(回族)とはイスラム教を信奉し、中国語を母語とする人々を指す。長安の回民は唐時代にアラビアやペルシャから移住した人々の子孫ともいわれる。自国に多数のイスラム教徒を抱える大統領だからこそ、その生活実態をこの目で見るのも理にかなったことだろう。

200億ドル契約の土産

マクロンは明らかに「馬克龍」という中国名を気に入っており、おそらくその漢字の意味まで理解していたようだ。西安から北京に移動した後、早速、自身の名前にふさわしい外交を展開。「馬は龍に克つ」といわんばかりに習に馬を1頭プレゼントして、パンダ外交ならぬ「馬外交」を実践した。

これに対し、習側も苦笑いしながらその「朝貢品」を納めるしかなかった。というのも、「馬克龍」は去勢した馬を運んできたからだ。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

仏ルノー、モビライズ部門再編 一部事業撤退・縮小

ビジネス

中国の新規銀行融資、11月は3900億元 予想下回

ビジネス

ECB、大手110行に地政学リスクの検証要請へ

ワールド

香港の高層住宅火災、9カ月以内に独立調査終了=行政
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story