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最新ポートランド• オレゴン通信──現地が語るSDGsと多様性

山本彌生|アメリカ

この夏の異常気象をポートランドで考える。エコビル、環境、建設業界の女性活躍

この夏、ポートランド地域を含むアメリカとカナダの北西部を襲った約10日間の熱波。クーラーが無い家庭も多いこの地域。スーパーの氷は売り切れ。冷蔵庫を開けたまま、キッチンの床に寝たという家が多かったことに驚き!異常気象による電力使用増加という、皮肉なループ現象に色々なことを考えさせられます。 Photo | i-Stock

|より良い建物が、より良い未来の生活へ直結している

6月末、ポートランド一帯を襲った熱波の約10日間。過去史上最高気温、47℃を記録しました。

玄関を開けて外に出ようとすると、そこはまるでサウナ室。息をするのも戸惑うほどの熱量は、かつて経験したことのないものとなったのです。

その異常な猛暑の期間、高熱症により死亡した数は98名に上る。そう正式にニュースで発表された時には、その現実の恐ろしさに身震いをする市民も多くいたと言います。

それから4か月経過。そんな猛暑は、すっかり忘れ去られている感もあるポートランド。とはいえ、世界の気候危機は無くなったわけではなく、その緊急性は一段と高まっているのが現実です。

そんな矢先、日本生まれの真鍋さんがノーベル賞を受賞。うれしい一報となって世界を廻りました。『二酸化炭素の増加が温暖化を進める』という、今の時代では常識となったことを50年前に明らかにした方です。こうした長年の努力を基に、地球の温暖化や気候変動の研究が進んでいきました。

今の地球の温暖化による弊害はいくつもあります。海面の上昇(河 川 氾 濫)、農作物への影響(水 資 源 不 足・食 料 不 足)、生態系への影響(不漁・生命体絶滅)、熱帯性感染症の増加等。そこから、私たちの日々の暮らしに直接影響が及ぼされていくのを年々、シビアに感じています。

それに加えて、温暖化と建設は密接に結びついている。このトピックは、建築業界の方だけではなく、今では一般の人にも幅広く浸透しはじめているようです。

このような環境問題への世界的な意識の高まり。それと呼応(こおう)するように、現在の建築物に必要とされるのが、LEED* (リード)。省エネと環境に配慮した建物・敷地利用を先導している、グリーンビルディング(エコビル)の評価・認証システムです。

LEEDによる主なメリットは、『環境への配慮』と『二酸化炭素の削減』。オフィスビルから一般住宅といった、建築用の環境性能評価システムです。健康的で高効率、かつコスト削減が可能なグリーンビルディングの仕組みを提供しています。

このポートランドの町を散策すると、至るところで目にするグリーンビルディング建築物。それを示すかのように、ここ10年、特に注目を集めている業種があります。それがLEED認証建築ビルのプロ、コンサル・アドバイザーです。

その一人が、オレゴン起業家協会(OAME)で知り合ったサマーさん。日本に比べて、女性の働く環境は数段進んでいるはずのアメリカ。その中でも、保守的な部分を残すオレゴン州*。特に建築業界では、女性としての活躍はまだまだ難しいものがあります。そのような環境の中で、サステナブル建築コンサルティングの会社を起業した、笑顔の大きな女性です。

この夏の異常気象が過ぎ去り、ほっと一息ついた初秋に彩られたポートランドからお届けする、多様な環境のストーリーです。

Summer Cover photo.jpegPhoto |Summer Fowler

| なぜ今、建設業界に「女性活躍」が必要なのか?

生まれも育ちもポートランド 、生粋の『ポートランダー』のサマーさん。オレゴン大学で一般建築を学んだ後は、ポートランドから車で約4時間弱のシアトルの建築会社に初就職をします。その後、地元の建築会社にUターン転職。そして、2009年に意を決して起業に至ったと話し始めます。

「きっかけとなったのは、2004年。有名な環境建築のコンベンションにシアトルで参加したことでした。そこで、『気候変動や海面上昇によって水没する都市』を示すプレゼンテーションを見てショックを受けたのです。あの時点において、持続可能という分野の建築にフォーカスを置いている企業は、決して多くありませんでした。ですからそれを機に、これからの地球の環境に焦点を当てた仕事をしたい。そう強く思ったわけです。」と凛とした口調で振り返るサマーさん。

そこから約10年間、持続可能性、公平性、そして建築環境における健康とウェルネスの関連性。そんな分野に焦点を当てて、新たなグリーンビルについての学習を広げていったと言います。それはちょうど、ポートランドがグリーンビルディングのメッカとして注目を集め始めた頃と重なります。

「グリーンビルというのは、まだまだ新しい分野。ですから、実に多くの事柄を学ぶ必要がありました。

具体的には、LEED ビルの新規建設、周辺地域の開発、脱炭素化、主要なグリーンビルディング認証。さらに、室内環境分野の持続可能な設計、健康・ウェルネスなど。それらを全て、プロの専門家として全てカバーしていったのです。

そして、学びは今も続いています。というのも、この分野の技術は、現在進行形で日々変化、向上をしているからです。

このポートランドの町の変化。それに伴う、数年前の都市の作り方が今はあまり通用しないのと同じ。その様な変化は、グリーンビルの世界では日常茶飯事です。ですから、日々アップデイトをしていくことが、プロとして問われる。とてもシビアな業界です。」

全てを前向きにとらえ、邁進するサマーさん。彼女のような女性の進出が目覚ましい分野でもあります。とは言え、建設業界は今だに男の世界。女性が働きやすい環境とは決して言えません。無言の偏見バイアスで測られると苛立ちを覚える。その様な経験から、『女性がもっと活躍できる建設業界とは』という部分を深く掘り下げて、企業を前進させてきました。

「グリーンビルディングに携わる女性は、建設・エンジニアリング業界全体に比べて多いのは事実です。にもかかわらず、プロジェクトの成果が評価される際には、女性は見落とされがちです。その理由は、プロジェクトを決定するのは建築家であり、そのほとんどが男性だから。女性はアイディアの開発者として見られることはあっても、その創造者として見られることはあまりない。これは、大変残念な点でもあります。

そんな環境の中で、女性がリーダーシップを発揮する上で非常に重要なこと。それは、別の視点からの意見に耳を貸すこと。それが良いものであれば、頑なにならずに取り入れること。このことを忘れてはいけないと常に意識をすることが大切です。」

プロフェッショナルな人材を評価する場合、性のバイアスを取り払うこと。そして、そのプロジェクトに適した存在なのかどうかを真っ向から向き合うこと。このように、その人の能力と適応性に準じて、選出をする必要性がより高く求められる現代の多様性。

「社会環境に優しいかどうかの判断は、単にソフト面だけの問題ではありません。グリーンビルというものは環境のためだけではなく、優れた人、そしてその他の資産管理のためにも必要とされているものなのです。」

では、グリーンビルディングと将来の利点とはどんなものなのでしょうか。

iStock-1318708483.jpgLEED認証を受けた建物の入り口には、Platinam、 Gold、Silver、Certified という4つのレベルが記され表示される。Photo | i-Stock

Profile

著者プロフィール
山本彌生

企画プロジェクト&視察コーディネーション会社PDX COORDINATOR代表。東京都出身。米国留学後、外資系証券会社等を経てNYと東京にNPOを設立。2002年に当社起業。メディア・ビジネス・行政・学術・通訳の5分野を循環させる「独自のビジネスモデル」を構築。ビジネスを超えた "持続可能な" 関係作りに重きを置いている。日系メディア上のポートランド撮影は当社制作が多く、また業務提携先は多岐にわたる。

Facebook:Yayoi O. Yamamoto

Instagram:PDX_Coordinator

協働著作『プレイス・ブランディング』(有斐閣)

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