World Voice

イタリア事情斜め読み

ヴィズマーラ恵子|イタリア

バールの小袋砂糖、ホテルのアメニティグッズも廃止。欧州連合の包装に関する新規則とは

iStock- RobertoDavid


| バールやレストランから砂糖の小袋が消える

2022年11月30日、欧州委員会によって提示された包装に関する新規制の提案では、バール(喫茶店、コーヒーショップ、ショットバー)やレストランでの使い捨て包装を禁止することを明示した。

小袋包装された砂糖のパケットが、すぐにバールから消えるかもしれない。
また、ホテルの石鹸・ボディーショープジェルやシャンプーのボトルも同様に提供を禁止になるという。
その理由は、欧州連合が取り組んでいる新しい包装基準である。

実際、欧州委員会によって提示された文書には、HORECA部門(「ホテル」 「レストラン」 「カフェ」 の略語、いわゆる業務用食品の販売先)の使い捨て包装を明示的に禁止している。

イタリアの通信社アドンクロノスは「小袋、チューブ、トレイ、プラスティック容器、それらは禁止されるだろう。プロセスはまだ始まったばかりだが、EUの意思は明らかである。 」と説明している。

iStock-1133005405.jpg
iStock- dontree_m


| 欧州連合の包装規制、欧州委員会の目標野心的なプロジェクト


ペットボトル・アルミ缶の再利用・リターナブル容器に注力しているヨーロッパは、2040 年までに1人あたりの包装廃棄物を15%削減したいと考えている。
それだけでなく、2030 年までに持ち帰り用飲料の売上の20%を再利用可能なパッケージまたは顧客の容器を使用して提供する必要があり、2040年にはそれを80%までに達成させる必要があるという。
新パッケージプラスチックには、リサイクルされた素材を使用することが義務付けられるという。

全ヨーロッパ圏で、年間約180kgの包装廃棄物を生成している。
的を絞った介入がなければ、欧州では2030年までに包装廃棄物がさらに19%増加し、プラスチック包装廃棄物はさらに46%増加すると推定されている。
それはどのように機能するのだろうか。

新しい法律が成立すれば、工業用堆肥化を目的とした包装は、ティーバッグ、コーヒーポッド、果物と野菜のステッカー、非常に軽いビニール袋にのみ許可され、バール、レストラン、ホテルにとって真の革命となる。
実際、それは砂糖の小袋に別れを告げ、より環境に配慮したシュガーボウルに戻ることを意味する。
それだけでなく、レストランでよく使用されていた、パンデミック中に指数関数的に増加した使い捨ての油と塩、そして、病院で使用されるバイアルも姿を消すことを意味しているのだ。

ここで、筆者は欧州指令の法矛盾を感じた。現在、衛生保護基準の目的であるEC指令2001/11法令第51/2004号では、バールなどでシュガーポットを置いてはならないとされている。
砂糖は包装済みの物のみで提供されなければならない。
違反店には罰金2,000(約28万4,800円)〜6,000€(約85万4,000円)が課せられる。
イタリアでは、コロナウイルスによるパンデミック後から、バールカウンターには砂糖が置かれていないという状況が続いた。
砂糖が欲しい人は、バリスタへ直接リクエスをする自己申告スタイルへと変わった。
バリスタからは、白い砂糖(普通=ノルマーレ)かブラウンシュガー(三温糖=カンナ)かダイエットシュガー(人工甘味料=キーミカ)かの三択で、よくバリスタに訊かれ、希望の砂糖の種類を答えると1袋だけ渡されるという仕組みだった。
イタリアで、グリーンパスの提示義務が無くなった頃から、再び砂糖入れはテーブルの上やカウンターに登場し始めた。

IMG_9611.JPG
筆者撮影、イタリアのワクチン接種証証明証(グリーンパス)の提示義務が解除されたされた後に行ったミラノのバールにて

商品中身の新鮮さが保証されているという確実性や衛生的にもしっかりと小分けになった小袋を自らで選び、開封して、入れたい分だけ微調整しながら砂糖をカフェに加えたいものだ。しかしそれが、この欧州包装規制により、カフェが不味く感じることだろうと筆者個人の先入観と見解ではあるが、戸惑う規制法と現行のEC指令2001/11法令第51/2004号の矛盾点に大きな違和感を感じる。

容量調整のできないキューブ形状の砂糖であったり、下のあたりが固まった継ぎ足しを繰り返してきた賞味期限が不明な砂糖を、常に外気に晒されているシュガーポットで提供され、不特定多数の人が共有で使い回しているスプーンで砂糖をすくい、これから飲もうとしているカフェにそれを追加するシーンを想像するだけで、かなりの抵抗がある。

iStock-517930229.jpg
iStock- ShotShare


|イタリア農業生産者団体コルディレッティ(Coldiretti)の反応

コルディレッティとイタリアサプライチェーンのフィリエラ・イタリアは、この件に関してすでに反対を表明している。
この措置が、包装部門の企業に多大な悪影響を与える可能性のあることを懸念されるという。
コルディレッティ・エットーレ・プランディーニの社長は、
「これらは、イタリアの包装チェーンと、特に技術的に進歩した持続可能でリサイクル可能な材料に投資した企業に報いない規則で、農業食品チェーン全体の生産コストへの重大な悪影響と経済的困難の瞬間に消費者が支払う価格に反映されてしまうというリスクを伴う。」と語った。
また、コルディレッティとフィリエラ・イタリアは、特に深刻なのが、"製品を個別に包装することなく、大量に商品を大型パッケージで販売することへの移行を奨励している点"を指摘している。
小袋包装をしないで販売される製品は腐敗性が高くなることや、製品自体の保存期間の改竄などの可能性も起こり得る、商品に対する管理についての懸念に加え、物品の流通経路を生産段階から最終消費段階あるいは廃棄段階まで追跡が可能な状態にするトレーサビリティーのレベルを低下させることにもつながりかねないと、非難している。


| サステナビリティ(持続可能性)パッケージングだと消費者の購買意欲もあがる

持続可能な包装と従来の包装材料の実際の違いは何なのか?
通常のパッケージでは、持続不可能で再利用できない素材が使用されることがよくある。
木を切り倒すことでつくられた紙や、石油由来のプラスチック製品について考えてみると、私たちのニーズにはすでに不十分な有限のリソースである。
顧客の購入した製品を包む高品質なパッケージに変換され、天然素材で作られたパッケージは、開封後に廃棄されたり焼却されたりするのがほとんどだ。
時代遅れの慣行を超え、環境に全く優しくなく、逆行しながら物事を進めていると感じる。
環境に配慮したリサイクル可能な紙製品を製造する会社のPaperWise社によると、「消費者は、持続不可能で再利用できない素材で包装された商品ではなく、持続可能な包装で品質を維持し、より長い貯蔵寿命を保証するために保護されているものを選ぶ傾向にある。」と言う。人々はプラスチックの使用を極力減らしており、その商品が環境への影響が少ないことを証明するラベルがあるか、エコマークが印刷されてあるかなども確認しつつ、エコロジカルな使命に多くの注意を払っているそうだ。
このようにして、消費者は、製品を購入する際、その会社が持続可能性を最優先事項と考えているかどうかも同時にジャッジしており、持続可能な包装であると購買意欲につながっていると言っている。

サステナビリティ(持続可能性)は近年大きな関心を集めているトピックであり、近い将来に衰えることはない傾向にある。
消費者が、持続可能なパッケージを選ぶ理由は、自分の選択が地球に影響を与え、持続可能性への関心のおかげで世界をより良い場所にするために自分の役割を果たすことができるということを認識しはじめているからではないだろうか。

近年、欧州では意識の高い消費者をターゲットとするブランドは増えてきており、企業ブランドイメージ向上の最前線に立っているのは、持続可能なラッピングとパッケージへの移行であるという。

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

Ranking

アクセスランキング

Twitter

ツイッター

Facebook

フェイスブック

Topics

お知らせ