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南米街角クラブ

島田愛加|ブラジル/ペルー

大統領選!候補者のコマーシャルソングからみる最近のブラジル音楽

2019年に人気急上昇したピザジーニャの2人組、Os Barões da Pisadinha(本文内Youtubeよりキャプチャ)

いよいよ大統領選挙まで2ヶ月を切った。

前回の大統領選挙(2018年)では、長年続いた労働者党による汚職にウンザリした人々の票が流れてボウソナロが当選という結果だったのだが、就任後の数多くの問題発言から、その支持率は低下。元々、アンチが多かったボウソナロ氏の再当選は厳しいだろうと言われている。

今回、ボウソナロ最大の敵になるのは前大統領ルーラだ。
ルーラは汚職疑惑の有罪判決が取り消されたことにより、今回の大統領選挙に出馬が可能となった。

ブラジルの大統領選は半数以上の票を獲得した場合、一回目の投票で当選となるが、半数以下の場合は二回目の投票が行われる。
一回目でルーラが当選することを防ぎたいボウソナロは、支持率アップのためにバラマキ政策を強行したにも関わらず、期待以上の効果が得られていないようだ。

【8月18日付、Datafolhaの事前調査】
ルーラ支持47%
ボウソナロ支持32%
残りは他の候補者、もしくは無回答

多様性を大切にし、教育支援や貧困層に目をむけた政策により今でも熱狂的なファンをもつルーラ支持者の票と、とにかくボウソナロ再選を防ぎたい人々の票によって、今のところルーラ優勢が報じられている。

|音楽大好きな国ブラジルの選挙運動

8月16日から選挙運動が解禁され、続いて26日からテレビやラジオでも放送される。
そこで注目したいのは各候補者のコマーシャルソングだ。

テレビのプロパガンダだけでなく、商店街の店頭、スーパー、車で商品(たまごやガスボンベなど)を売りに来る人、いたるところにコマーシャルソングがあふれるブラジル。

一度聴いたら耳から離れなくなるようなメロディに、ブラジルならではの多様なリズム。
自分たちのイメージや、支持を得たいターゲットに合わせて作曲されているのが興味深い。

大統領選にもコマーシャルソングがあり、候補者ごとに複数の楽曲が制作され、1曲もしくは2曲をが主なテーマとして起用されるそうだ。
今日は各候補者のコマーシャルソングの中から、それぞれの特徴を捉えているものを紹介したい。

|ルーラは人気急上昇中の北東部の最新音楽

ルーラとブラジル音楽業界の関係は非常に深い。
例えば国民的アーティストで世界的にも名が知られるジルベルト・ジルはルーラが大統領だった時期に文部大臣を務めている(2003~2008年)。
他にも大御所シコ・ブアルキ、若い世代に大人気のルジミーラ、パブロ・ヴィタールといったアーティストがルーラを強く支持しており、最近ではSpotifyのグローバルランキングで1位に輝いたアニッタもルーラに投票をする表明をした。

そんなルーラのコマーシャルソングで印象的なのは、北東部の音楽文化フォホーが進化したピザジーニャ(もしくはピゼイロ)と呼ばれる最新の北東部ポップスを起用したものだ。

ルーラは北東部ペルナンブーコ出身ということもあるが、以前から北東部で圧倒的な人気がある。
2018年の大統領選では、汚職疑惑で出馬できないルーラに代わって立候補したハダッジが、北東部でボウソナロに勝利している(但しセアラ州のシロ・ゴメス優勢を除く)。

そういった面でも、ルーラは北東部の支持率を保証することに力を入れているだろう。

ピザジーニャの特徴は、1台のキーボードにある。
北東部の田舎ではキーボード弾き語りというのは珍しくない。彼らはキーボードに入っている機能(プリセットされているリズムや、それをミックスしたもの)を巧みに使いこなし、自動伴奏のリズムに合わせて歌うのだ。

メロディは哀愁があり、基本的にマイナーコードが多い。また、お隣である北部の音楽で同じくキーボードを使うテクノ・ブレーガなどの要素も混じっている。

いずれもリズムは複雑ではなく、1、2、1、2と頭拍でステップを踏めるので、我々日本人にもしっくりくるかもしれない。

このキーボードを中心にした使った音作りは、2000年代初頭から北東部の若者中心に人気が増していったが、そのシンプルさをつまらないと否定するような意見も多かった。

ピザジーニャが全国的に広まったのは、近年のブラジル国内チャートで1位常連のセルタネージョ歌手グスターボ・リマが2014年のライヴでピザジーニャの楽曲を歌い、録音をしたのがきっかけだった。

元々ダンス音楽であるフォホーのノリは、ライヴで盛り上がらないはずがなく、その後、セルタネージョの歌手たちは次々とピザジーニャをライヴで取り上げるようになった。

すると、2019年にピザジーニャの2人組オス・バラオンィス・デ・ピザジーニャの人気が急上昇。Youtubeの再生回数は3億回を越えた。サッカー選手のネイマールもピザジーニャのダンスを披露し、SNSではダンス動画を投稿する人が続出。現在は新たなアーティストが次々と登場している。

|キーワードは「〇〇」、ボウソナロも支持者を逃さない

一方で現大統領ボウソナロのコマーシャルソングはセルタネージョとゴスペルの融合のような楽曲に仕上がった。

かねてからセルタネージョというブラジル内陸部の田舎から生まれた音楽や、その現代版とも言われるセルタネージョ・ウニヴェルシターリオ業界のアーティストから支持されているボウソナロには当然の選択だっただろう。

歌ったのはマテウス&クリスチアーノという売り出し中のセルタネージョ・デュオ。ボウソナロと共に生放送でその歌唱力を披露した。

この曲はギターと二声(一人がメロディを歌い、もう一人がハーモニーを歌う)というセルタネージョ風でありながら、福音派の教会で良く歌われるゴスペル的な要素も含まれている。

普段から、ボウソナロは「神」と「家族」というキーワードを頻繁に使っているのだが、もちろん、コマーシャルソングのサビにも「Deus Acima de Tudo」という、絶対的な神の存在や、家族の絆などが描かれており、ボウソナロ支持票の基盤となっている福音派との意思統一を欠かさない。

|よくばりすぎ?三番手のシロ・ゴメス

前述したセアラ州出身のシロ・ゴメスはルーラ、ボウソナロに大きく放されてはいるが、その他の候補者の中では最も支持が多い。
彼はパゴージという、70年代にサンバを土俵に生まれた音楽を選んだ。パゴージは90年代以降よりポップに変化し、今でも一定の層に人気を得ている。

「いつもと同じは退屈だ!今、シロが注目される時だ!」と、当選が予想されるルーラと労働者党に向けて歌っている。

パゴージの人気は今でもリオデジャネイロやサンパウロに集中しているので、セアラ出身のシロがこれを選ぶとは意外だったが、実はこの曲以外にも同郷のアーティスト、ベルキオールの大ヒット曲の替え歌や、伝統的なフォホー、マルシャと呼ばれるストリート・カーニバルで歌われるお祭り風な曲も用意。
作りすぎて覚えてもらえなさそうだ。いったいどれがメインの曲となるのだろう。

|女性であることを大々的に歌うシモーニ

今回の大統領選の立候補者は11名。男性7名、女性4名である。
女性候補者の一人、シモーニ・タベッチはフェミネージャと呼ばれるセルタネージョの女性版ともいわれる音楽を起用した。

セルタネージョは元々、男性によるデュオが主流であり、歌詞の内容やアーティストの振る舞いから男尊女卑と言われる事も多かった。時代の変化と共に、女性の人権やこれまで進出が難しかった分野での女性の活躍が注目され、セルタネージョ界でも多くの女性歌手が活躍している。

そこでシモーニはこのフェミネージャと共に女性の力を前面に出したコマーシャルソングを制作した。
彼女はシロに続く4番目の支持率を得ている。

ちなみに、若者には人気な音楽だが、スラム街で発祥したという時代背景と過激な歌詞やダンスから中年から高齢者に評判の良くないファンキは大統領選のコーマシャルソングには起用されていないようだ。

|大統領選と今後のブラジル音楽のヒットチャート

正式に選挙運動が開始され、大統領選までコマーシャルソングがテレビやラジオが流れたり、支持者たちの集会で歌われたりするだろう。

ちなみに私は"セルタネージョの首都"と呼ばれる街ゴイアニアに住んでいるのだが、最近はセンター街を歩くと聴こえてくるのはピザジーニャばかりだ。これは、この辺りが北東部や北部からデカセギにくる人が多いというのもあるが、音楽市場が変わっているように感じる。

これが大統領選と関係しているように感じるのは私の思い過ごしだろうか。

いずれにせよ、ブラジルの音楽チャートは、もう長い間セルタネージョ勢が独占状態だったが、最近ではファンキの巻き返しやピザジーニャが入り込んできているのは事実である。

政権が変わる時に物事が大きく動く国であり、変わる時は一気に変わる(その分ミーハーな人が多い気もする)。
来年、新たな時代がやってくるかもしれないと思うと、期待と不安が入り交じる。

 

Profile

著者プロフィール
島田愛加

音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。

Webサイト:https://lit.link/aikashimada

Twitter: @aika_shimada

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