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南米街角クラブ

島田愛加|ブラジル/ペルー

ブラジルのレイプと中絶問題「女性として生きるのが怖い」

ブラジルだけでなく、南米の大きな問題である男尊女卑(photo by iStock)

「もう我慢できない!!」

友人のインスタグラムのストーリーに、その一言だけが表れた。

私の友人たちは、普段からSNS上で政治や社会問題のニュースを取り上げることが多い。
24時間だけ表示されるストーリーは気軽に投稿できるため、ニュースの共有や、それに対する自分の意見がよく書かれている。良い話も多いが、最近は暗いニュースばっかりだ。

嫌な予感がしてニュースサイトを開くと、衝撃的な見出しが大きく表示された。

「麻酔医が出産中の女性をレイプ」

今月11日、信じがたい出来事がリオデジャネイロ州の病院で起こった。
この麻酔医は、帝王切開のために麻酔を受けた女性の口に自分の性器を入れて自慰行為を行っていたのだ。

被害者の女性は下半身部分がカーテンで仕切られていたため、帝王切開を行っていた医師と看護師はそれに気づかなかったが、麻酔を行った後も妊婦の近くから離れないジョバンニ・キンテーラ・ベゼーハ容疑者(31)を不審に思った看護師が、携帯電話でその様子を撮影。
その後、現行犯逮捕された。

現在、この男は刑務所に搬送されたが、受刑者たちから暴行を受ける危険性があると判断され、独房に収容された。ブラジルの刑務所では、女性暴行や母親殺人などで収容された場合、受刑者から暴行されるのは暗黙の了解だそうだ。


|近年、増加傾向のブラジルのレイプ被害数

ブラジルでは過去10年間だけで583,156人がレイプ被害に遭っている。
被害届を出さないケースも考えると、実際は大幅に上回るだろう。

特に、ここ一ヶ月ほど、女性のレイプ被害のニュースが大きく話題にされている。
最初に大きな波紋を呼んだのは、6月末、レイプされて妊娠した11歳の少女に対し、サンタカタリーナ州の女性判事が人工中絶を認めなかったニュースだ。

現在、ブラジルで中絶は違法だが、レイプによって妊娠した場合、妊婦に死亡のリスクがある場合、胎児が無脳症と診断された場合は認められている。しかし、判事は対応が遅れた事を理由に少女の手術を中止するよう促した。

判決に対して多くの批判が起こり、少女は中絶手術を受けることができたが、少女の体と精神状態が心配だ。

|人気女優が投稿した公開状

それに続くように、国内ドラマだけでなく、映画『透明な私の青春ダイアリー』で主演を務めたクララ・カスターニョ(21)が衝撃の公開状を自身のインスタグラムに公開した。

私はレイプされました。

被害届は出しませんでした。
恥すべき事と感じ、自分の責任だと思ったからです。
その時、私が唯一できたことは、アフターピルを飲み、検査をすることでした。

数ヶ月後、気分が悪くなり病院に行きました。
医師は胃炎、ヘルニア、筋腫を疑いましたが、私は妊娠していました。

わかった瞬間、私はもう一度凌辱された気分になり、自分を責めました。
レイプに遭ったことを医師に伝えましたが、彼は私に赤ちゃんの心臓の音を聞かせ、「半分はあなたのDNAです。あなたはこの子を愛さなければなりません。」と言いました。

この子が無条件に注がれるべき愛情を、私は与えられる状況にありません。
弁護士に相談し、法的な手続きを経て子供を養子に出すことに決めました。

(『carta aberta 』より一部抜粋)

出産後、病院の看護師は「もし、マスコミがこの事実(養子に出した事)をしったらどうなるかしら?」とクララを脅し、間もなく芸能ジャーナリストからメッセージが届いた。
彼と電話で話し、事実を認めたうえで情報公開しないことを約束。

ジャーナリストはニュースで取り上げなかったが、人気女優のスクープを黙っていられず、親しい友人たちに話してしまった。
すると、インターネット上で一気に広まり、クララが子供を養子に出したことを批判する声が上がりはじめた。
しかし、クララがレイプ被害に遭ったことは報道されていなかったため、彼女は全てを話すことを決断した。

この公開状が投稿された後、多くの芸能人やアーティスト、SNSユーザーがクララを擁護すると発言。
ジャーナリストと所属メディアは謝罪し、密告した看護師は警察の調査対象となった。

公開状からしばらくして、クララは寄せられたメッセージに感謝し、今は心理カウンセラーと共に心のケアを行っていると発表した。

|レイプされる理由

クララの衝撃のカミングアウトに、女性たちは「レイプに遭い、中絶すれば批判される。レイプに遭い、出産して養子に出したら批判される。悪いのはいつも女性なの?」と主張を始めた。

そこに、麻酔医による抵抗できない妊婦への残虐行為が報道され、

「道で、教会で、家で、病院で、分娩台で。
見知らぬ男、友人、彼氏、夫、親戚、父親、そして医者から。
レイプされるのは、セクシーな服を着ているからじゃない。夜遅く出歩くからじゃない。レイプされるのは女性だから。女性として生きるのが怖い」


と、SNSで怒りと悲しみをあらわにする声があがっている。

レイプの被害に遭うリスクは、どんな時にでもある。
改めて、根付いた男尊女卑はブラジルの大きな問題だということを実感する。

インスタグラムアカウントのCoisasは、この問題にどう向き合っていくべきか女性だけでなく男性にも向けて提案を投稿。
多くの人に共有され、2000件以上のコメントが寄せられている。

|中絶の話はタブー?

レイプ被害の話と同時に注目されているのは、中絶の合法化である。

前述したように、ブラジルで中絶は法律で認められていない。
それでも望まぬ妊娠をした女性や、レイプ被害者が公にしたくないが故に隠れて中絶するケースは多く、設備が不十分な場所で中絶手術を受け死亡するケースもある。

ブラジルではキリスト教の思想から、中絶に対して反対意見をもつ人が多いと言われている。現大統領のボウソナロ氏も、中絶はいかなる場合も反対派である。

カトリック信者が減少しているものの、まだその思想が残るブラジルで中絶について発言をするのは非常にデリケートな問題であり、多くの政治家が避けてきた。

しかし、近年は生活スタイルの変化と共に、女性の中絶は法的に認められるべきだという運動が起こっている。

10月に控えた大統領選でボウソナロ氏と一騎打ちになるだろうと言われている、ルーラ元大統領は、中絶の合法化に前向きだと演説中に発言。これは支持率を落とす恐れもあるため、ルーラ氏の側近たちは懸念している。

悲しいニュースが続いているので、この記事を書こうかしばらく悩んでいたが、友人の「もう我慢できない!」発言で、私も黙っていられないと決心した。
少しでも多くの方に、今起こっていることを知っていただきたい。

次回は喜ばしい話がお届けできますように。

 

Profile

著者プロフィール
島田愛加

音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。

Webサイト:https://lit.link/aikashimada

Twitter: @aika_shimada

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