World Voice

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コペンハーゲンで考える、生き物の話

姫岡優介|デンマーク

未来の生物学のはなし

はじめまして。デンマークはコペンハーゲン大学のニールス・ボーア研究所で研究員をしている姫岡優介といいます。今月からこちらのWorld Voiceさんで記事を書かせていただくことになりました。

デンマークと聞いて何か思い浮かぶでしょうか、、、失礼な話なのですがこちらに来る以前の僕は何も浮かびませんでした。

アンデルセン童話を著したハンス・クリスチャン・アンデルセンの生まれ故郷で、そしてレゴの発祥国として本家レゴランドがある、幸福度の高い北欧の小さな国-これくらいが一般的なガイドブックに載っているデンマークの印象かと思います。しかし本当は多くの素晴らしい知識人を排出してきた国であり、学問に多大な貢献をしてきました。日本でそういうことが聞かれないのは北欧の「カラフルな御伽の国」みたいなイメージと合わないからでしょうか。

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(photo from iStock)

哲学では『死に至る病』のキルケゴール。物理学ではケプラーの法則の発見に繋がる観測を行なったティコ・ブラーエ、磁場の単位にもなっているエルステッド、量子力学の黎明期に多大な貢献をしたニールス・ボーアらがいます。物理がお好きな方なら量子力学の「コペンハーゲン解釈」を聞いたことがあるのではないでしょうか。また、微生物学においても「コペンハーゲン・スクール」と呼ばれる研究者の一派がいました。京都学派みたいですね。

そんな学問的にも豊かな国、デンマークで日々研究をしています。専門分野は生物物理学とか、理論生物学とか言われることがありますが国際的には「システム生物学」という呼び方が広まりつつあるようですし、個人的にもこれがしっくりきています。今後また詳細に解説をすることがあるかも知れませんが初めての記事なのでこの分野のことをとてもに簡単に紹介させてください。

システム生物学はひとことで言ってしまえば「生きものを支配する方程式をみつけよう!」という分野です。ニュートンの運動方程式を解いてやれば、投げたボールはどこまで飛ぶのか、振り子はどのように振動するのかといったことが分かりますが、これと同じことを生物学でもやりたい!というのが我々のモチベーションです(だと思ってます)。例えば、微生物の成長速度を最大化・最小化する培養環境の判別、iPS細胞の数理的理解、あるいは生物の進化方向の予測などなど。

システム生物学と分子生物学の大きな違いは、その名の通り生き物を「システム」として捉えるアプローチにあります。分子生物学はワトソンとクリックによるDNAの発見以降爆発的に発展し、生命活動を支える部品たち-DNA、RNA、タンパク質など-について極めて詳細な理解を可能にしました。しかし時計を時計たらしめているものはテンプやアンクル、歯車それ自身ではなく、そういったパーツたちが協調して働くことです。同様に、いまや詳細に分かるようになった生物を構成するパーツたちはどのように相互作用して、生き物を生き物たらしめているのか-ここのあたりの事情を理解したいというのがシステム生物学の気持ちではないかと僕自身は思っています。

システム生物学ではどのような研究がされているのかというイメージを持っていただくために、目にも楽しいいくつかの実験動画を紹介します。教科書で習った生物学に比べてどんな印象を抱かれるでしょうか。

こちらはマザー・マシンと呼ばれる装置で、とても小さな溝に微生物を閉じ込めることで細胞ひとつひとつがどのように成長し、分裂し、環境によって死んでいくのかを詳細に追うことが出来ます。これによってたとえクローンの細胞集団でも、働いている遺伝子は個体ごとに相当違うといったことや、細胞は分裂する大きさのコントロールをどのように行なっているのかといったことが明らかにされてきました。僕もこれを使った実験をしたりしています。

次はこちら

驚くべきことに、小さい微生物であれば進化というのは実験室で簡単に観察することができます。これは巨大なプレートに微生物を撒いてどのように成長するかをみる実験です。プレートの両端に撒かれた微生物は栄養を消費しながら、まだ栄養の残っている両端に向かって増殖していくのですがこのプレート、中央に行くにつれて次第に高濃度の抗生物質が塗布されています。そのため薬に強くなるように進化しない限り中央に向かうことは出来ません。

微生物集団は増殖してひとつのエリアの餌を食い尽くすと、しばらく高濃度の抗生物質領域に入り込めずにいるのですが、どこかで突然変異が発生して未踏のフロンティアに乗り込んで行きます。最終的には祖先種が生存できる濃度のなんと1,000倍の抗生物質が撒かれたエリアまで到達してしまいます。

このビデオを解析し、どのように進化が起こり集団に広まっていったのか、あるいは平均してどれくらいの待ち時間で進化が起こるのか、といったことなどが調べられています。

僕自身は理論が専門で、実験をやるというよりこういったことを数式に落とし込むのが仕事なのですが、そのあたりの話はまたいつか書ければと思います。

僕は微生物を扱っているので微生物に関する動画を2本紹介しましたが、僕らが普段目にするような生き物も扱われています。
例えば鳥や魚の群れが示すパターンの研究など。こういった群れには「司令塔」のようなものはいないはずなのに、各個体がある程度「まとまって」飛んだり泳いだりしています。まるで群れ全体がひとつの生命体みたいで面白いですよね。

これはまったくもって僕の専門ではなく、下手なこと言うのが怖いので気になった方はこの動画などを見てみてください。

また、せっかくデンマークに住んでいるので研究以外のこともお伝えできればと思いますので、また読んでいただければ嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします!

 

Profile

著者プロフィール
姫岡優介

90年生まれ、東北大→東大院。現在、デンマークはコペンハーゲンでシステム生物学の研究をしています。「生きている状態」というのはどういった意味で特別な状態なのかということを数学的に理解することが目標です。もうすこしサイエンスが多くの方にとって身近になればいいなと思っています。twitter: https://twitter.com/yhimeoka

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