コラム

ウクライナに対する復興支援に日本の納税者の納得はあるのか

2024年02月02日(金)15時46分

この評価は、ウクライナ戦争以前から同様であり、ウクライナという国の政治体制の本質的問題と考えて良い。したがって、政府が巨大化する戦時体制が長期化することで、腐敗が更に深刻化していく未来は想像に難くない(ウクライナは2022年評価で113位、ロシアは137位で腐敗度としてはほぼ変わらないレベルだ。)

賛否が分かれる問題だが、ロシアに対抗するための国際社会による軍事協力に関しては一定の価値は認めることはできる。しかし、元々の汚職大国に対して、日本政府が納税者負担を前提とし、日本企業に大規模投資を推奨する行為は正常な判断ではない。


ウクライナ側のニーズを踏まえて支援すると言えば聞こえは良いが、そのような対応をすれば際限のない民間資本投資を要求されることは明らかだ。平時において絶対に実施することがない汚職国に対する大規模投資を戦時中に実行することは、日本国民の税金を事実上譲り渡すことに等しい。

日本政府は政策判断の優先順位を間違っている

米国は対外政策に関して優れたインテリジェンス能力や軍事展開能力を持っている。その米国の中ですらウクライナに対する支援継続に関する議論は割れている。今年の米国大統領選挙及び連邦議会議員選挙次第では、ウクライナに対する支援の文脈にも大きな変更が生じる可能性もある。日本が現時点で時期尚早な判断を主導することは望ましくない。

日本には自らに対する軍事的な脅威として、極東地域で自らの軍事力を上回る中国と相対している。また、北朝鮮という核を持った独裁国、ロシアの極東艦隊も存在している。

ウクライナの復興支援に対する民間投資は、ロシアの脅威を若干弱めることに間接的に繋がるかもしれないが、それよりも直接的な防衛力強化を図ることのほうが自国防衛に遥かに効果的であることは議論の余地もない。

まして、日本政府は主に中国の軍事的脅威に対抗するため、日本政府は防衛費を二倍増させる決断を下し、その財源のうち約1兆円を日本国民に対する増税によって賄うことを予定している。本来、他国に資金をばらまいている余裕など無いはずだ。

最後に、日本は1月1日に見舞われた能登半島震災によって、自国内の地域に対する多額の復興支援費が必要とされている。自国の復興こそが第一優先であることは明白だ。

日本政府は政策判断の優先順位を全く間違っていると言えるだろう。

20240514issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月14日号(5月8日発売)は「岸田のホンネ」特集。金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口……岸田文雄首相が本誌単独取材で語った「転換点の日本」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国輸出、4月は予想通り前年比+1.5% 輸入は8

ビジネス

円安、輸入価格上昇通じて実質所得下げる影響=植田日

ビジネス

原油価格や為替の今後の動きを注視と植田日銀総裁、実

ビジネス

午前の日経平均は反発、前日安の反動 個別物色が活発
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 4

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 5

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 6

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 7

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 10

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story