コラム

アジアの自由主義系シンクタンクの年次総会、Asia Liberty Forum2022開催

2022年10月03日(月)19時53分

マニラで開かれたAsia Liberty Forumの様子

<アジア地域で活躍する自由主義系シンクタンクの関係者が集う年1度のイベントが開催された......>

9月29日・30日にフィリピン・マニラでAsia Liberty Forumが開催された。同イベントはアジア地域で活躍する自由主義系シンクタンクの関係者が集う年1度のイベントである。参加国が持ち回りで開催しており、筆者も過去にインド、ネパール、マレーシア等で開催された同イベントに参加している。

Asia Liberty Forumは米国のアトラス財団がコーディネートしている。同財団は著名なシンクタンクであるロンドンのIEAを設立したアントニー・フィッシャー氏が1981年に設立し、その後世界中の自由主義系シンクタンクの育成・組織化に尽力している。現在では、アトラス財団は知る人ぞ知る世界の自由主義ネットワークの一つであり、100か国以上参加し、数百に及ぶシンクタンクが組織化されている。欧州ではハイエク研究所などの名門シンクタンクが名を連ねており、欧米の政治関係者ではその存在を耳にしたことがある人も多いだろう。

経済政策に影響を与える独立系のシンクタンクばかり

今回のAsia Liberty Forumでは、インドからはCenter for Civil Society、香港からはLion Rock Institute創設者、マレーシアからはIDEASなどの活動的なシンクタンクが参加し、2022年大会の主催はフィリピンのFoundation of Economic Freedomが務めた。参加国は数十か国。いずれも活躍する地域においては現政権の経済政策に影響を与える経済系のシンクタンクだ。しかも、日本の通例である政府の御用型シンクタンクではなく、一定の距離を保った独立系の組織ばかりという点に特徴がある。

本年のフォーラムのテーマは、移民市場、食糧輸出入規制、アジアにおける女性の経済的権利、財産権と投資の関係、フェイクニュースが言論の自由にもたらす脅威、インド太平洋地域の自由貿易のフレームワーク、権威主義国からの亡命などが議論された。

以前にマレーシア大会に参加した際、TPP参加国のシンクタンクからは、TPPの枠組みが自由貿易のためのツールという側面だけでなく、自国の腐敗した社会システムを改革するためのツールとして捉えられていたことなど、多様な角度から意見交換がなされたことが記憶に残っている。今回のフィリピン大会ではIPEFなどの役割について、米国や中国との関係について熱い議論が交わされた。

権威主義国による脅威認識が通底として共有されており、直近の時勢を反映した内容になっていたものと思う。日本の国名が挙げられた話題としては、インド太平洋地域の自由貿易のフレームワーク構築について言及が多かった。この分野については複数の自由貿易協定を主導した日本の評価は高く、その重要性を改めて認識させられる。

日本人参加者が毎回1名しかいない

同フォーラム中に実施された今年の社会的なシンクタンクの活動を称えるアワードは、インドで女性の経済的人権を訴えるシンクタンクが受賞することになった。具体的には女性がバーでお酒を提供していたら逮捕されたことに対する法改正を訴えるシングルイシューの取り組み、非常に分かりやすくローカルな取り組みも評価される。各々の国柄が反映した話題で興味深い。

さて、このフォーラムの時期になると日本人参加者が毎回1名しかいないことに寂しさを感じる。その原因は以前の記事にも書いたが、日本からも世界の自由主義ネットワークに自主的に参加する人がもう少し増えて、日本での政治・政策に関する議論がもう少しグローバルな形に開けていくことが望ましいものと思う。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米最高裁、旅券記載の性別選択禁止を当面容認 トラン

ビジネス

FRB、雇用支援の利下げは正しい判断=セントルイス

ビジネス

マイクロソフトが「超知能」チーム立ち上げ、3年内に

ビジネス

独財務相、鉄鋼産業保護のため「欧州製品の優先採用」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story