コラム

トランプ勝利を予測した教授が説く「大統領弾劾」シナリオ

2017年05月12日(金)17時00分

■不法移民からの搾取
トランプは、「不法移民を強制的に送還する」ことを約束してアメリカ国民から支持を得たが、彼自身が不法移民を雇い、しかも搾取していた。ニューヨークを訪問した人なら誰でも知っているマンハッタンのトランプタワーを建設した1980年、トランプは、わざとポーランドからの不法移民を選んで働かせた。なぜなら、正規のアメリカ人を雇うよりもずっと安くつくからだ。また、どんなに扱いがひどくても、訴えられないこともわかっているからだ。

トランプ・モデル・マネージメントも、カナダ人モデルから訴えられた。ビジネス用のビザを与えずに、違法のままで働かせ、収入の大部分をアパート代や経費として差し引くのだ。6人で同じ部屋に住み、3年働いて受け取った給料は約80万円でしかなかったという。

■大統領の座をビジネスに利用している
これまでの大統領は、職業倫理の一環として、ビジネスの地位を放棄し、所有している株などを売却した。大統領としての行動が、私利目的になってはいけないからだ。ところが、トランプはいまだにビジネスから身を引いておらず、利益も得ている。トランプが経営する会社がある国々の指導者とも会っている。「トランプの個人的な投機と、大統領としての公務が対立している」とリクトマンは指摘する。

■海外政府からの報酬・利益供与
大統領が外国政府から報酬や利益を得るのは、利益相反で憲法違反だ。トランプの場合は、ホテルやカジノ経営で外国政府から利益を得ている。また、トランプが経営する会社は中国で約50の商標を申請していたが、トランプが大統領に就任した後の2月に、ペンディングになっていた38が仮承認となった。香港の専門家も「これほど多くの商標が素早く承認されるのは見たことがない」とコメントしている。

「アメリカ国民全員にとって危険なのは、トランプが自分の経済的利益とアメリカ合衆国にとっての利益とを区別できていないこと。しかも意識すらしていない」という点は、さらに重要だ。

【参考記事】トランプ政権下でベストセラーになるディストピア小説

■非人道的犯罪(Crimes Against Humanity、人類そのものへの犯罪ともいえる)
これはたぶんもっともあり得ないシナリオだと思うが、地球の温暖化(気候変動)対策に真っ向から反対する政策を打ち立てるトランプに対して、国際刑事裁判所(International Criminal Court)が 非人道的犯罪で訴える、というものだ。長い目で見れば、本当に重罪なのだが、実現の可能性は低い。核兵器を使用したらあり得るが、それだけはなにがあっても避けたい。

その他にも山ほどあるのだが、そろそろ「本当に弾劾されそうなシナリオ」について語ることにしよう。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

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