コラム

「アメリカ料理」には移民の人生ドラマが詰まっている

2016年02月24日(水)15時00分

移民社会のアメリカでは移民の母国の料理が「アメリカ料理」になる(写真はLutefiskが入ったノルウェー料理) PUBLIC DOMAIN

 アメリカ人の姑は、「来客があるの」と私が口にすると、かならず「何料理を作るの?」とたずねてくる。そこで、「和食のバリエーション」とか「タイ風カレー」とか答えると、「アメリカ料理は作らないの?」と、返ってくる。そこには、「アメリカ暮らしが長いのに、なぜ頑固にアメリカ料理を拒否するの?」という、ささやかな批判も交じっている。

 30年近く似たようなやり取りを繰り返して飽きてきたので、一度「アメリカ料理って、どういうものですか?」と尋ねてみた。

 すると、彼女は「scalloped potatoesとか......」と言う。でも、それは、フランスからやってきたポテトグラタンだ。そう指摘すると、「アメリカ料理のはずよ。私は子どもの頃から食べていたもの」と譲らない。どうやら姑は、ローストビーフやチキンスープも「アメリカ料理」と信じているようだ。

 では「アメリカ料理」とは何だろうか?

【参考記事】どんなにサービスが悪くても、チップは15%払うべし

 思いつくのは、ピザ、ホットドッグ、ハンバーガー、チリコンカルネといったファストフードだが、これらも、アメリカへ来た移民が母国の味を作り変えたものだ。私の姑はアメリカ中西部のオハイオ州出身で、彼女の両親はこの地域に多いオランダ系、ドイツ系、イギリス系移民の子孫だ。だから、これらの国の「味覚」が姑にとっては「アメリカ料理」なのだろう。

 同じアメリカの中西部でも、冬がことに厳しいミネソタ州には、ノルウェー、フィンランド、スウェーデン、デンマークなど北欧諸国からの移民が多い。文芸小説『Kitchens of the Great Midwest (English Edition)』の主人公Evaの父親Larsも、北欧系移民が多いミネソタ州の田舎で育った。ノルウェー系移民の父親から、Lutefiskというノルウェーの国民食を作ることを強いられた気の毒な少年だった。

 Lutefiskとは、干して発酵させた白身の魚を灰汁(あく)に漬けて柔らかくしたもので、魚はゼリー状になり強い悪臭を放つようになる。日本のくさや、韓国のホンオフェなど、どの国にも、外国人が「そんなもの食べられるの?」と驚愕する国民食があるが、Lutefiskもそのひとつだ。悪臭も、慣れている人には食欲をそそる香りになるかもしれないが、作るときに染みこむ魚の臭いが好きな人はいない。だから、12歳のときからLutefiskを作っていたLarsは、まったく女性にモテず、立派なシェフになることだけを夢見て大人になった。

 やがて念願のシェフとなり、遅ればせながらも初めて愛する女性と出会って幸せを掴んだLarsだが、子育てよりソムリエとして活躍したい妻に捨てられてしまう。乳児の娘とふたりきりになったLarsは、溺愛する娘のEvaに味の英才教育を始める。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

イラン情勢踏まえても、金融政策の具体的手法は日銀に

ビジネス

中東紛争、深刻な国際的ショックに発展も=豪中銀金融

ワールド

トランプ政権、米企業にベネズエラ国営石油会社との取

ワールド

英南東部の髄膜炎集団感染で2人死亡 大学生らにワク
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 3
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 4
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 5
    モジタバの最高指導者就任は国民への「最大の侮辱」.…
  • 6
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 7
    ガソリン価格はどこまで上がるのか? 専門家が語る…
  • 8
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 9
    観客が撮影...ティモシー・シャラメが「アカデミー賞…
  • 10
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったの…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 6
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 9
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 10
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story