最新記事

アメリカ社会

どんなにサービスが悪くても、チップは15%払うべし

NYレストランのチップ廃止は広がるか? 知らなきゃ損するチップ制の「非情な」裏事情と新常識

2016年1月25日(月)15時42分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

おもてなしは無料じゃない 寿司の名店「スシ・ヤスダ」や、「シェイク・シャック」創業者の経営レストランなど、ニューヨークではチップ廃止に踏み切る店が出てきたが、それで客が払う総額が安くなるわけではない Leontura-iStock.

 アメリカのレストランで食事をして、会計の際に立ちはだかる壁と言えば――チップだ。年末年始のアメリカ旅行で、気持ち良く酔っ払っているところ「何パーセント掛けると合計いくら?」という計算を強いられ目が覚めた、という人も多いはず。だが最近、チップ大国アメリカでこの非情な慣習に廃止の動きが見え始めている。

 ニューヨークでは2013年、寿司の名店「スシ・ヤスダ」が日本式を掲げてチップ制を廃止し、大きな注目を集めた。これに続くようにいくつかの日系店がチップ廃止に踏み切っていたが、昨年10月にはグルメバーガー・チェーン「シェイク・シャック」の創業者ダニー・マイヤーが、自身が率いるユニオン・スクエア・ホスピタリティー・グループ(USHG)系列の全13店舗で段階的にチップを廃止すると発表。今年に入ってからは、ニューヨークのラーメンブームの火付け役「モモフク・ヌードル・バー」の創業者デービッド・チャンが新店舗「ニシ」でチップ制を廃止し、ついに非日系店も「チップなし」に乗り出した。

 ということは、アメリカ人もようやく「おもてなし」を無料にする気になったのか? 残念ながらこの国にそんなに甘い話があるはずもなく、USHGのマイヤーはチップを廃止すると同時にメニュー単価の大幅値上げを宣言している。上げ幅は店舗やメニューによって異なるが、例えば2月からチップを廃止する人気イタリアンの「マイアリーノ」では22~28%の値上げを検討中だという。

 そもそもチップとは、客がサービスの満足度によって支払うはずのものではなかったか。アメリカでは、レストランのチップの相場は15~20%と言われている。満足度に応じてもっと幅があっていいはずなのに、「悪いサービスを受けても勝手に20%が上乗せされるなんて」といきり立つ人もいるだろう。

 だがチップ廃止をめぐる議論を見ていると、実際にはこの考え――客にチップの額を決める権限がある――こそが「非情」だったと思えてくる。見方を変えれば、チップ制は客にとってではなく、レストランで働く従業員にとって容赦のないシステムとも言えるのだ。

時給は約2ドル、チップは収入源の「すべて」である

 まずアメリカでは、チップというのは実は、サーバー(ウエーターやウエートレス)の収入源の「すべて」だという大前提がある。チップ制で働くサーバーはほとんどの場合、店からは最低賃金しかもらっていない。連邦法はチップ制のある職種の最低賃金を時給2.13ドルと定めていて、通常の最低賃金7.25ドルよりも低く抑えられている。ニューヨーク州での規定では時給7.5ドルだ(昨年末まではなんと時給5ドルだった)。

 この最低賃金はほぼ納税で消えてしまい、彼らの収入は全額チップでまかなわれていると言っても過言ではない。つまり客は、レシートのチップ欄に額を書くたびにサーバーの給与そのものをはじき出していることになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アメリカ経済学会、サマーズ元財務長官を活動から排除

ビジネス

豪インフレ、予想以上に長期化なら金融政策に影響も=

ワールド

「戦争の恐怖」から方向転換を、初外遊のローマ教皇が

ワールド

米ブラジル首脳が電話会談、貿易や犯罪組織対策など協
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 6
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 10
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中