コラム

トランプ、南部国境で「非常事態宣言」 移民流入と対テロ戦争の交錯

2025年01月27日(月)11時12分

ジャウラニは宗教や民族の壁を越えた新生シリアの構築のため穏健路線に舵を切っているが、それに反発する者たちがフッラース・アル・ディーンなどの武装勢力に流れるだけでなく、シリア東部などではイスラム国によるテロ事件が増加しているとの情報もあり、シリアが再びテロの温床になることへの懸念もある。

しかし、トランプ政権がこういった対テロの問題に深く首を突っ込むことはないだろう。トランプ大統領が外交・安全保障政策の一環として、各地域におけるテロの脅威を根絶するため、各国の軍・警察の支援などに本腰を入れるとは考えにくい。


仮にあるとすれば、諸外国に存在する米国権益(米国大使館や米国企業、米国人)に対する大規模なテロ攻撃が発生し、テロ対策の強化で当事国に圧力を掛ける場合のみだろう。

不法移民対策は対テロでもある

トランプ大統領が重視する対テロは、外交・安全保障というより治安、国土安全保障というものになろう。

今回の大統領令でも、外国のテロリストや安全保障上の脅威からアメリカを守ることが含まれたが、トランプ大統領は早速、不法移民対策の一環として南部国境の非常事態宣言を発出し、メキシコと接する南西部の国境地帯に軍を派遣するとした。

実際、イスラム国などと関係するメンバーらがメキシコ国境を超えて米国に流入することへの懸念もあり、トランプ政権にとって不法移民対策を強化することは、イスラム国などのテロの脅威の流入を抑えることも意味する。

今日のデジタル化社会では、イスラム国やアルカイダなどのテロ組織はブランドやイデオロギーと機能し、それに感化された個人によるテロはいつどこで起こっても不思議ではなく、それを事前に食い止めることには限界がある。

よって、トランプ政権の4年間でもテロ組織のブランドやイデオロギーに感化された個人によるテロは発生することが予想されるが、不法移民対策の強化を前面に出すトランプ大統領としては、メキシコ国境から流入したイスラム国関係者が国内でテロを起こすというシナリオは避けなければならない。

同じテロ事件だったとしても、その後にトランプ政権が受ける政治的ダメージは大きく異なる。トランプ政権における対テロは、外交・安全保障というより治安、国土安全保障に大きく比重が置かれたものになろう。

ニューズウィーク日本版 ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年2月24号(2月17日発売)は「ウクライナ戦争4年 苦境のロシア」特集。帰還兵の暴力、止まらないインフレ。国民は疲弊し、プーチンの足元も揺らぐ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

和田 大樹

CEO, Strategic Intelligence Inc. / 代表取締役社長
専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障、地政学リスクなど。海外研究機関や国内の大学で特任教授や非常勤講師を兼務。また、国内外の企業に対して地政学リスク分野で情報提供を行うインテリジェンス会社の代表を務める。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米GDP1.4%増に急減速、25年第4四半期速報値

ワールド

イラン、数日中に対案準備 米との核協議巡り=アラグ

ワールド

トランプ氏、最高裁の関税違法判断「恥ずべきこと」

ビジネス

米コアPCE価格指数、12月は前月比0.4%上昇 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由...「落葉帰根」派も「落地生根」派も
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 5
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 6
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 7
    ディープフェイクを超えた「AI汚染」の脅威──中国発…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    「窓の外を見てください」パイロットも思わず呼びか…
  • 10
    生き返ったワグネルの「影」、NATO内部に浸透か
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 3
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 4
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 5
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 6
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 9
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 10
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story