コラム

現代の模範村、中国・烏鎮(ウーチン)で開かれた世界インターネット大会

2018年11月14日(水)16時50分

これまでの5回の烏鎮サミットのうち、習近平国家主席が来たことは一度だけだという。今回の5回目は、上海で第1回中国国際輸入博覧会が開かれており、習近平はそちらで演説を行った。米中間の貿易問題が厳しい時節柄、そちらを優先したのだろう。

IMG_6748c.JPG

中央網絡安全・情報化委員会(CAC)の庄荣文

開幕式の司会は、中央網絡安全・情報化委員会(CAC)の庄荣文である。2013年6月、米国カリフォルニア州で行われたバラク・オバマ大統領と習近平国家主席による首脳会談の際、サイバー攻撃が問題になり、物別れに終わった。しかし、習近平は帰国後、対応を進めるように指示し、翌年はじめにCACの前進となる中央網絡安全・情報化領導小組が設置された。それに伴って以前からあったこのポストが急速に重みを増すことになった。

そして、皮肉なことに、そのときの領導小組弁公室主任である魯煒(庄荣文の前々任者)は、昨年11月になって汚職で捕まってしまった。ニュースを聞いて驚き、知り合いの中国人研究者に会ったとき、何が起きているのかと聞くと、「中国で誰かが捕まるときは、金と職権乱用と女のセットと決まっている」と苦笑した。なお、魯煒の後任の徐麟は共産党の中央宣伝部副部長になっている。

庄荣文が世界インターネット大会の主賓として紹介したのは、中央宣伝部の部長である黄坤明である。共産主義には宣伝(プロパガンダ)が不可欠だが、宣伝部は思想取り締まりや検閲を担うポストでもある。黄はまず、習主席の短いメッセージを代読し、その後、自らの基調講演を行った。

集団的ガバナンス=集体治理

黄の基調講演は、当然のことながら、習のメッセージを敷衍したものになる。その中で気になった言葉が、「集団的ガバナンス」である。私は中国語を介さないので英語の通訳を聞いていたが、何度も「collective governance」という言葉が出てきた。そして、このキーワードは、3日間の世界インターネット大会を通じて中国人の登壇者が繰り返して使うキーワードでもあった。

中国人研究者に、集団的ガバナンスは中国語でどう書くのかと聞くと、紙に「集体治理」と書き付けた。日本語では「集団」と書くのだけどと聞いてみると、「たぶん同じ意味だろう。ここでは身体という意味ではなく、グループでという意味だ」と教えてくれた。「国連で使う集団安全保障と関係があるのか」と重ねて聞くと、「必ずしもそういうわけではない。ユニラテラリズムに反対するという意味だ」と教えてくれた。ユニラテラリズムとは単独行動主義という意味である。そういえば、ユニラテラリズムに反対すると強い調子で語っていた中国人教授もいた。

おそらく、米中間の貿易摩擦がここにも影響しているのだろう。どこの国のユニラテラリズムか名指しはしていないが、当然、米国によるサイバースペースの覇権に中国は反対する、米中を中心とする多国間のガバナンスを進めるべきだと言いたいのだろう。

昨年の世界インターネット大会は、名だたる米国企業のトップが登壇していた。たとえば、アップルのティム・クックCEOやグーグルのサンダー・ピチャイCEOがスピーチを行っている。しかし、今年は米国でちょうど中間選挙の投票が行われている最中ということもあったが、米国からは政府高官の来訪もなく、有名企業のトップの来訪もなかった。GSM方式の携帯電話事業者の業界団体であるGSMA(GSM Association)のジョン・ホフマンCEO、携帯の半導体設計で知られるクオルコムのスティーブ・モルコフCEOがスピーチを行ったが、彼らの関心は次世代の携帯電話標準5Gで、中国メーカーが5Gを牽引していることを考えると彼らの登壇は必要に迫られてのことだろう。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

MAGAZINE

特集:顔認証の最前線

2019-9・17号(9/10発売)

世界をさらに便利にする夢の技術か、独裁者のツールか── 新テクノロジー「顔認証」が秘めたリスクとメリットとは

※次号は9/18(水)発売となります。

人気ランキング

  • 1

    【韓国政治データ】文在寅大統領の職業別支持率(2019年9月)

  • 2

    韓国のインスタントラーメン消費は世界一、その日本との関わりは?

  • 3

    外国人への憎悪の炎が、南アフリカを焼き尽くす

  • 4

    アメリカ人労働者を搾取する中国人経営者

  • 5

    9.11救助犬の英雄たちを忘れない

  • 6

    【韓国政治データ】次期大統領としての好感度ランキ…

  • 7

    2050年人類滅亡!? 豪シンクタンクの衝撃的な未来…

  • 8

    香港デモはリーダー不在、雨傘革命の彼らも影響力は…

  • 9

    「Be Careful to Passage Trains」日本の駅で見つけ…

  • 10

    ヒマラヤ山脈の湖で見つかった何百体もの人骨、謎さ…

  • 1

    タブーを超えて調査......英国での「極端な近親交配」の実態が明らかに

  • 2

    消費税ポイント還元の追い風の中、沈没へ向かうキャッシュレス「護送船団」

  • 3

    「日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう」への反響を受け、もう一つカラクリを解き明かす

  • 4

    韓国のインスタントラーメン消費は世界一、その日本…

  • 5

    【韓国政治データ】文在寅大統領の職業別支持率(201…

  • 6

    思い出として死者のタトゥーを残しませんか

  • 7

    9.11救助犬の英雄たちを忘れない

  • 8

    性行為を拒絶すると立ち退きも、家主ら告発

  • 9

    韓国男子、性との遭遇 日本のAVから性教育での仏「過…

  • 10

    英国でビーガンが急増、しかし関係者からも衝撃的な…

  • 1

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいついで感染

  • 2

    日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう

  • 3

    嘘つき大統領に「汚れ役」首相──中国にも嫌われる韓国

  • 4

    ヒマラヤ山脈の湖で見つかった何百体もの人骨、謎さ…

  • 5

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 6

    寄生虫に乗っ取られた「ゾンビ・カタツムリ」がSNSで…

  • 7

    「TWICEサナに手を出すな!」 日本人排斥が押し寄せる…

  • 8

    「鶏肉を洗わないで」米農務省が警告 その理由は?

  • 9

    韓国で脱北者母子が餓死、文在寅政権に厳しい批判が

  • 10

    「この国は嘘つきの天国」韓国ベストセラー本の刺激…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!