コラム

日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先

2025年05月16日(金)11時40分
周来友(しゅう・らいゆう)(経営者、ジャーナリスト)

「国宝」であるはずのパンダに対する中国の扱い

パンダは中国の国宝だ。かつて絶滅の危機に瀕していたが、生育地の熱心な保全活動により、2016年には見事、絶滅危惧種のリストから外れた。以前は食べれば死刑とされていたし、今でも自国での人気に陰りは見られない。

にもかかわらずその国宝を、中国政府は1940年代から外交カードとして利用し続けてきた。1972年から始まった日本への贈与・貸与とて政治的な意図があってのことだ。果たしてこれが「国宝」に対する扱いだろうか。


パンダの贈与や貸与、契約の延長、返還はその時その時の対中関係に左右されるといわれる。

例えば、2023年秋に訪米した習近平(シー・チンピン)国家主席がアメリカへの新たな貸与に意欲を見せると、2024年には早速、20年以上のパンダ飼育実績があるにもかかわらず「ゼロパンダ」が5年間続いていたカリフォルニア州のサンディエゴ動物園に、2頭のパンダが貸与された(トランプ政権になる前でよかったね)。ちなみに2023年春には、テネシー州のメンフィス動物園にいるパンダが「激やせしている!」と中国のSNSで話題になり、危うく米中間の外交問題に発展しかけた。

一方、日本では近年、茨城県知事や仙台市長が「わが町にパンダを」と中国側に陳情していたが、政治的なコストをどう考えているのか。和歌山の4頭返還のニュースが出た後には、ちょうど訪中していた日中友好議員連盟会長の森山裕・自民党幹事長が、中国側に新たなパンダ貸与を要請している。

和歌山の返還は極めて突然の決定であり、真相は謎のままだ。そんななか、日中関係が良いとも言えないのに、新たな貸与など現実的ではないだろう。数億円の貸与料、いや、どのような条件をのまされることになるか分かったものではない。

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