コラム

外国人には分かりにくい、日本の「平和主義」ってなに?

2020年04月11日(土)17時40分
李 娜兀(リ・ナオル)

昨年11月に開催された日本初の防衛装備展示会も他国とは違う雰囲気 COURTESY NAOHL LEE

<日本の防衛政策が何を抑制しているのか、それが世界平和にどのように役立つのか、もっと分かりやすく示してほしい>

20年ほど前、韓国陸軍士官学校の学生たちに交じり、ソウルで日本の駐在武官による講義を聴いたときのことだ。

自衛隊と国連平和維持活動(PKO)についての話で、「武器使用は隊員の生命・身体の防護のための必要最小限に限る」といったPKO5原則の説明を受けると、学生の1人が「本格的な攻撃を受けたらどうするのか」と質問した。すると日本の武官は「まずは逃げる、ということになるだろう」と答えた。学生たちは「冗談だろう」と受け止めつつ、「たとえ冗談にしても、軍人が『逃げる』と言うなんて」と当惑していたのを覚えている。

こんなことを思い出したのは、今年は東京五輪の年(編注:五輪開催は21年7月に延期)でもあり、また日米安保条約60年の節目であることもあって、時折「平和国家としての日本」や「日本の平和主義」に関する記事や社説が日本の新聞に載るからだ。

この比較的よく使われる「平和国家」が何を意味するのか、正直に言って外国人には分かりにくいと思う。そもそも日本は実際、防衛費支出額では世界トップ10に入る軍事大国であり、所有する先端兵器も多いためだ。

時に不合理なほどの自縛

私は日本に留学し、日本の外交政策の勉強を本格的に始めてから、PKOへの対応のほか代表的な平和主義的政策に武器輸出三原則があることを知った。

これも十数年前になるが、日本に詳しい元米国防総省幹部にインタビューしたことがある。この幹部は日本の武器輸出三原則について「潜水艦で使うコップも軍隊用だと武器に分類され、輸出できない。不合理だ」と批判的だった。そのときの話では、そのコップというのは底にゴムが付いていて、テーブルが傾いても倒れにくいということだった。それを聞いて、私もそれは確かに不合理だと思ったものだ。

このように日本の平和主義が外国人にとって理解が難しいのは、その焦点が時に不合理なほどに自らを縛ることにあり、それによって国際社会をどう平和にするか、という部分は見えにくいという理由があると思う。

もちろん、ここで挙げた事例は、いずれもやや極端なものだろうし、PKOの在り方も武器輸出三原則もその後、大きく変わっている。武器輸出三原則は2014年に防衛装備移転三原則となり、15年の安全保障関連法の成立で自衛隊の海外での活動の範囲は広がった。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国人民銀、一部銀行の債券投資調査 利益やリスクに

ワールド

香港大規模火災、死者159人・不明31人 修繕住宅

ビジネス

ECB、イタリアに金準備巡る予算修正案の再考を要請

ビジネス

トルコCPI、11月は前年比+31.07% 予想下
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 8
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 9
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 10
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story