コラム

ここがスゴイよ日本のバラエティー番組──テレビの演出と民主主義

2020年03月19日(木)11時20分
周 来友(しゅう・らいゆう)

SMOLAW11/ISTOCKPHOTO

<討論バラエティー番組などに出るとき、私は日本サゲという立ち位置を取ることが多い。真面目で説教くさい中国のテレビ番組と違い、日本では演出の効果が重視されているからだ>

先日、空席が目立つ新幹線に乗り、大阪に行ってきた。『そこまで言って委員会NP』(読売テレビ)に出演するためだ。

幅広いテーマで討論を行う関西の人気バラエティー番組で、その日は私のほかに、中国問題の専門家である石平さんや張景子さんらが出演。習近平(シー・チンピン)国家主席の国賓来日と新型コロナウイルス問題をめぐって舌戦を繰り広げた。

同じく中国出身だが、テレビでは石平さんが日本アゲ、私は日本サゲという立ち位置を取ることが多い。日本のヨイショは石平さんに任せ、私は大好きな日本のためにあえて辛辣なコメントをする。

もちろん、嘘をつくわけではない。あくまで演出の範囲内で誇張した発言をするだけだ。そう言われても、納得がいかない視聴者もいるだろう。特に中国人は「中国がばかにされている!」と本気で怒る人が多い。演出だと知らないからだ。

大阪の番組に限らず、日本のワイドショーやバラエティー番組はどれも、演出の効果を重視している。

中国のテレビ番組は真面目で説教くさく、教訓を与えようとするものが多い。それに対し、日本の番組ではとにかく面白くしよう、視聴者を笑わせようという意識が強く働く。「対抗軸」を作って出演者の立ち位置を分かりやすく見せたり、タレントが「おばかな」コメントをしたりするのも、そうした演出の1つだ。

長く話すより短いコメントをポンポン繰り出す。わざと大げさにしゃべる。個人的な意見より、自分の立ち位置に沿ってコメントする――長いテレビ業界での経験から、私もそういった「お作法」は心得ている。

通訳やコーディネーターとしてテレビ局に出入りしていた私は、90年代後半、特番の『ここがヘンだよ日本人』(TBS系列)出演を打診され、以来、レギュラーで呼ばれるようになった。

「トラブル孫悟空」なんてあだ名まで頂戴し、その後も、『なかよしテレビ』(フジテレビ)など多くのバラエティー系の討論番組やワイドショーに出演させていただいている。

ただ、最初は不思議に思っていた。わざわざ外国人を呼んで日本の悪口を言わせるなんて、日本人ってMなのかな(笑)と。だがこれが日本流のエンターテインメントなのだと分かってからは、迷いはなくなった。

テレビで日本を批判して、日本のネットユーザーに「日本から出て行け!」と書かれても、逆に中国人から「今度会ったらレンガで頭をブチ割るぞ!」と書かれても、いちいち気にしてなどいられない。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ダライ・ラマ、「輪廻転生」制度を存続 後継選定で中

ワールド

豪小売売上高、5月は前月比0.2%増と低調 8日の

ビジネス

豪カンタス航空、600万人分の顧客データベースにサ

ワールド

英国へのボート難民、上半期で過去最多約2万人 昨年
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 6
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 7
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 8
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story