和歌山カレー事件 死刑囚の母と子どもたちの往復書簡に見た「普通の家族」

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<冤罪の可能性が指摘される27年前の殺人事件。林眞須美死刑囚による書き下ろし「まえがき」や新資料を加えて出版された書簡集から分かったこと>
こんな人生になるなんて考えてもみませんでした。我が子と離れ離れの人生になることなど想像もできませんでした。(電子版特別収録 眞須美 まえがきより)
1998年7月25日に起きた和歌山カレー事件について、ある年齢以上の人には今さら説明するまでもないだろう。夏祭りで提供されたカレーにヒ素が混入され、67人が急性ヒ素中毒になり、4人が死亡した事件である。
2009年5月19日に死刑が確定した林眞須美は、一貫して無実を主張している。状況証拠しかない中での判決で冤罪の可能性が高いと指摘され、現在、再審請求中だ。今なお多くの人が検察の姿勢と判断に疑問を抱き続けている(私もそのひとりだ)。
このたび出版された『眞須美 ~死刑判決は『シルエット・ロマンス』を聴きながら~』(林眞須美・著、幻冬舎)は、2006年刊行の『死刑判決は『シルエット・ロマンス』を聴きながら――林眞須美 家族との書簡集』(講談社)の電子書籍版。
夫の健治、4人の子どもとの間で交わされた書簡集である。新たに書き下ろされた自身による「まえがき」、長男による手記、新資料も収録されているため、事件の全貌がより鮮明になる一冊だ。
報道が加熱していた事件発生当時、群がる報道陣に向かってホースで水を撒いた光景が必要以上にセンセーショナルに強調されたせいもあり、本書の著者である林眞須美死刑囚は「毒婦」などと形容されることが多かった(ひどい表現だ)。
だが、彼女が必ずしもそんな人間ではないことは本書の端々からも読み取ることができる。それに、ここで展開されている会話は、どれも普通の家族間で交わされているものとなんら変わりがない。