最新記事
BOOKS

「コメント見なきゃいいんですよ、林さん」和歌山カレー事件・林眞須美死刑囚の長男の苦悩

2024年6月27日(木)21時00分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
ネットニュースをスマホで読む

Mangostar-shutterstock

<事件から26年がたった今も、加害者家族を悩ませるメディアの報道。和歌山で起こったその事件は、冤罪の可能性が指摘されている>

1998年、日本中を騒がせた和歌山カレー事件。

地域の夏祭りで提供されたカレーに毒物が混入しており、67人がヒ素中毒を発症した。小学生を含む4人が死亡。地元の主婦、林眞須美が被疑者として逮捕され、メディアの報道も過熱。2009年に死刑が確定した。

最高裁で判決の確定した事件だ。そのため世間一般の関心は薄れたかもしれないが、実は冤罪の可能性が指摘されている。

そして特筆すべきは、林眞須美死刑囚の長男がメディアで発信をしていること。2019年7月には、『もう逃げない。 ~いままで黙っていた「家族」のこと~』(ビジネス社)という本を「林眞須美死刑囚長男」として出版した。

今年8月3日からは、その長男も登場する、和歌山カレー事件を多角的に検証したドキュメンタリー映画『マミー』(二村真弘監督)が全国で公開される。

書評家の印南敦史氏は、『もう逃げない。』の書評をニューズウィーク日本版で書いたことから縁が生まれ、その長男と交流を始めることになったという(参考:和歌山毒物カレー事件、林眞須美死刑囚の長男が綴る「冤罪」の可能性とその後の人生)。
『抗う練習』
今年5月に出した新刊『抗う練習』(フォレスト出版)は、自身の半生を綴りながらまとめられたユニークな自己啓発書だが、そこには印南氏と長男(本書では「林くん」と表記)の4時間58分に及ぶロング対談も収録されている。ある意味で「抗う人」の代表格というわけで、印南氏は2回、和歌山まで取材に赴いた。

そのほんの一部だが、ここに抜粋する。

※抜粋記事第2回:「死刑囚だけど、会いたいから行ってるだけ」和歌山カレー事件・長男の本音

◇ ◇ ◇

矢面に立とうと思った理由

挨拶をしたころは降り注いでいた日が少しだけ傾きはじめ、そのころには場の空気がさらに和らいでいきました。そしてそんななか、話題はメディアのあり方へ。

印南 自分に対しての反省点も含め、メディアのあり方については思うところが多いんだけど、「対メディア」という点については、世代の問題もあるよね。20代と50代では、特定のことばについての感じ方も違ってくるわけだし。

 そうなんです。いまではもう使っちゃいけないとされていることばも、かつてはお笑いのネタにされていたようなことがありましたし。60代、70代、うちの親世代も、まだ当たり前のようにそういう(下の世代からすればヒヤヒヤするしかないような)ことを言うんですよ。だから僕も、いまの世代にカレー事件が伝わるように意識して話すようにはしているというか。誤解されたままの状態でネットニュースにされたら、父親に攻撃が行くだけだと思うので。

印南 翻訳が必要だって面倒くさいけど、仕方がないかもね。

 そうなんですよね。父親は78歳なんですけど、『仁義なき戦い』とか、ああいう時代の人なので。でも、それを聞いてる記者さんは24歳ですよ。そのギャップが、誤解につながるかもしれない。そうでなくとも週刊誌の人とかは「林健治、紀州のドンファンについて語る」とか、わざとおもしろおかしく書いたりするんです。で、そういうことが続いた結果、父親が老人ホームの人から「林さんにここにいられちゃ困る」って言われて、仕方なく老人ホームを転々としたんですよね。それで、「このままだと居場所がなくなるだけだから、担当を変わるわ」と、息子である僕が前に立つことにしたんです。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀総裁、中立金利の推計値下限まで「少し距離ある」

ワールド

与党税制改正大綱が決定、「年収の壁」など多数派形成

ビジネス

日経平均は反発、日銀が利上げ決定し「出尽くし」も

ワールド

米国土安全保障省、多様性移民ビザ制度の停止を指示
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中