最新記事

BOOKS

被害者遺族を「カラオケに行こう」と誘う加害者の父

出所後「事件を小説にする」と言う少年から、非常識で異常な親まで、被害者に苦痛を与え続ける少年犯罪の加害者たち

2015年12月14日(月)15時27分
印南敦史(書評家、ライター)

「少年A」被害者遺族の慟哭(小学館新書)』(藤井誠二著、小学館新書)は、少年犯罪問題に詳しいノンフィクションライターによる新刊。タイトルを見たときは「元少年A」についての新たなルポであるかと誤解してしまったが、そうではなく、少年犯罪の現状と問題点を、より広い視野で捉えている。

 ずしんとした重みを感じさせるテーマは、被害者遺族にのしかかる精神的苦痛、そして少年犯罪についてまわる「少年法」の問題である。特に精神的苦痛はすぐに収まるような性質のものではなく、しかもクローズアップされることは少ないだけに、ここに重きを置いたことについては強く共感できる。


 加害者は再犯をしないことが更生だとされる。それはたしかに大事なことだが、しかし、それだけでは足りない。被害者や被害者遺族に、二次的、三次的な精神的苦痛を与えるような行為を、絶対にしない生き方を選択することも、贖罪の大事な要素なのだ。(4ページ「はじめに」より)

 ところが、現実にはうまくいかないことも多い。これは少年犯罪に限ったことではなく、犯罪全般にいえることかもしれない。が、いずれにしても、こちらからすれば「なにを考えているのだか理解に苦しむ」ような人が現実に存在するからだ。そして、それは"治る"ものではないケースが少なくない。だから、絶対的な解決策はないのだ。本書を読んで、そのことを改めて痛感した。

 たとえば、以下の手紙がいい例だ。交際を申し込んで断られた女性にストーカー行為を繰り返すなかで殺意を醸成させ、最終的に彼女を刺殺した少年が、医療刑務所出所後に被害者遺族に宛てたもの。驚くべきことに、自らが引き起こした事件を小説にしたいというのである。この発想は「元少年A」に酷似しているが、事実、彼はのちに「酒鬼薔薇聖斗」からの影響を認めている。


「おもしろい小説を書きたいので、ふざけた小説にするつもりです。ですから永谷様が読むとあまりの内容に憤死してしまうでしょう。ですから永谷様は読まないほうがいいでしょう。誰にどう思われようと、僕が小説を書くことを辞めさせる権利は誰にもありません」(89ページより)

 拘置直後に被害者遺族に宛てた手紙には「できるだけ長生きしたい」とも書いていたというが、この少年の感覚は"普通の感覚"では理解しがたいものだ。しかし彼だけの問題ではなく、こういうタイプは決して珍しくないのかもしれない。すなわち、我々の周囲に"理解不可能な人たち"がゴロゴロいることが、本書を読み進めていくと明らかになる。

 さらに、気づくことがもうひとつある。本書で明らかにされているさまざまな実例を確認する限り、彼ら加害者は決して「突然変異的に生まれてしまったモンスター」ではないのかもしれないということだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米最高裁、教育省解体・職員解雇阻止の下級審命令取り

ワールド

トランプ氏、ウクライナに兵器供与 50日以内の和平

ビジネス

米国株式市場=小反発、ナスダック最高値 決算シーズ

ワールド

ウへのパトリオットミサイル移転、数日・週間以内に決
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中