歴史が警告する関税の罠──トランプ政策が招く「世界恐慌」の再来

A LESSON IN HISTORY

2025年5月22日(木)16時55分
スコット・レイノルズ・ネルソン(米ジョージア大学歴史学部教授)

だが関税率の急上昇でアメリカの歳入は大幅に減少。2年足らずで米財務省の金準備はほとんど底を突き、融資していた外国の金融機関や政府はアメリカで発行された債券、特に鉄道会社が発行したものを売却した。

債券保有者は、財務省の金準備がなくなれば政府は金本位制を放棄し、債券が減価した米ドルで返済されると懸念した。

最後に、1930年のスムート・ホーリー法は輸入品に高関税をかけ、30年代の大恐慌に大きく影響した。しかし、より直接的な影響を与えたのはアメリカの通貨供給量や証券の景気サイクル、第1次大戦でヨーロッパ各国がアメリカに対して負った戦争債務のほうだと、一部の経済史家は力説している。


筆者が19世紀を専門とする歴史家として唯一言えるのは、関税率の急激な変化が世界の仕組みを変えるということだ。関税率の急変は対応するのに何年もかかる形で国際貿易を根本から変え、次から次へと想定外の事態を招きがちだ。

1830年代の悪夢再び?

次に何が起きるかを理解するために、19世紀以降の出来事から何が学べるだろうか。現状では、トランプ関税によって非常に多くの企業が19世紀の農民や地方の商店、商人、奴隷所有者のように既に成立した取引から撤退せざるを得なくなるだろう。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイ10月輸出、予想下回る前年比+5.7% 対米は

ビジネス

ドイツのEV需要は「自主登録」が押し上げ、業界団体

ビジネス

10月ショッピングセンター売上高は前年比6.3%増

ワールド

NASA、ボーイング宇宙船計画縮小 不具合で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 8
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中