歴史が警告する関税の罠──トランプ政策が招く「世界恐慌」の再来

A LESSON IN HISTORY

2025年5月22日(木)16時55分
スコット・レイノルズ・ネルソン(米ジョージア大学歴史学部教授)

保護貿易と自由貿易の年表

自由貿易のてんびんを動かす

経済活動における最も強い力の1つは比較優位だ。

これは小麦の栽培や織物、ソフトウエアの開発など、自国が得意な分野の生産に特化してその財を輸出するという考え方で、自国の希少な資源を農民や鉱山労働者、製造業者が最も低コストで生産できるものに振り向ける。それぞれが自国の比較優位を生かして国際貿易を行うとき、理論上、全ての国が利益を得る。

この理論は実証されてきた。ヨーロッパ全土を襲ったジャガイモ飢饉の影響で、イギリスをはじめヨーロッパ諸国は1846年に食糧の自由貿易の導入を余儀なくされたが、それが予想外の繁栄をもたらした。


もちろん、それまで保護されていたグループの一部は打撃を受けた。

ヨーロッパの地主は、最も恩恵を受けているのはロシアとアメリカだと不満を募らせた。ロシア支配下のウクライナの肥沃な平原とアメリカ中西部であまりに安価に小麦を生産できたため、ヨーロッパの農地価格が下落したからだ。

また、自由貿易の波はイギリスとヨーロッパ大陸で農村部の貧困層を都市部に向かわせ、都市化と工業化の波が起きた。

言うまでもなく、中国やアメリカ、EUなど大規模で資源に恵まれた国や共同市場は、自由貿易のてんびんを自ら動かすことができる。為替レートを操作して自国の輸出を有利にしたり、補助金によって特定の産業を(例えば小麦よりトウモロコシを、繊維より半導体を、米より繊維を)優遇したりするのだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険2000件減、労働市場安定も失業期間

ワールド

訂正-G7、過度の不均衡対処で合意 対ロ制裁計画で

ビジネス

米実質賃金、過去1年は停滞=JPモルガン調査

ワールド

中国副首相、JPモルガンCEOと会談 協力深化呼び
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:関税の歴史学
特集:関税の歴史学
2025年5月27日号(5/20発売)

アメリカ史が語る「関税と恐慌」の連鎖反応。歴史の教訓にトランプと世界が学ぶとき

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 2
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 3
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 4
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 5
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 6
    子育て世帯の年収平均値は、地域によってここまで違う
  • 7
    米国債デフォルトに怯えるトランプ......日本は交渉…
  • 8
    空と海から「挟み撃ち」の瞬間...ウクライナが黒海の…
  • 9
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 10
    「誰もが虜になる」爽快体験...次世代エアモビリティ…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 4
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
  • 5
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 6
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 8
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 9
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 10
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中