ノーベル経済学者すら「愚挙」と断じるトランプ関税...トランプは何を勘違いしている?

ABSURD TARIFFS WILL BACKFIRE

2025年4月11日(金)12時50分
マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌コラムニスト)

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米国旗の縫製工場 BEATRIZ SCHILLER/GETTY IMAGES

加えて、諸外国はもとよりアメリカの財界も、この新政策の論拠となるお粗末な計算には愕然とした。発表された各国に対する税率は、どうやら(サービスを含まない)財の貿易赤字額を輸入額で割った単純な計算式に基づいているらしい。トランプは国家を民間企業と同じものと見なし、貿易黒字は利益で貿易赤字は損失と信じているようだ。

例えば中国。24年の対中貿易赤字2954億ドルを、中国からの輸入額4389億ドルで割ると67%になる。これが中国から課せられている事実上の関税率だとトランプ政権は解釈し、その半分の34%を「相互的」な関税率と決めている。


経済学者もあきれる「愚挙」

しかし、どう見ても理屈に合わない。「政策ではない。愚挙だ」と言い切ったのは、ノーベル経済学賞に輝く経済学者のジョセフ・スティグリッツ。ちなみにスティグリッツは、関税を用いる進歩的な貿易を長年支持してきた人物だ。

1期目でもそうだったが、トランプは貿易赤字に関するアダム・スミス以前の重商主義的な考え方を変えていない。過去250年間の経済学的知見にも不案内で、貿易はゼロサムゲームだと信じているようだが、現実には輸入国も輸出国も貿易で潤ってきた。

青春は取り戻せない。だがトランプは遠い昔の1890年代に恋しているようだ。当時の米大統領ウィリアム・マッキンリーも一時期「タリフマン(関税男)」を自称し、関税でアメリカの産業を守り、育てた。まだ今のアメリカが誇るテクノロジー業界が存在せず、サービス貿易の概念すらなかった時代だが。

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