最新記事
極右

マスクに続き...ドイツの次期「首相候補」まで、極右AfDに接近する「本当の理由」とは?

The far-right is rising at a crucial time in Germany, boosted by Elon Musk

2025年2月3日(月)15時52分
マット・フィッツパトリック(豪フリンダース大学教授)
ヒトラー風の口ひげを落書きされたメルツ首相のポスター

ナチスの指導者ヒトラー風の口ひげを落書きされたメルツのポスター AP/AFLO

<次の首相候補との呼び声も高いドイツキリスト教民主同盟のメルツ党首が破った「ドイツのタブー」。メルケル前首相からも批判の声が──>

2月23日のドイツ総選挙まで1カ月。アメリカの起業家イーロン・マスクは、ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」への支持を熱烈に表明している。

1月25日には同党の選挙集会でビデオ中継により演説を行い、ドイツ国民に呼びかけた──ナチス・ドイツのユダヤ人大虐殺をめぐる「過去の罪の意識」を乗り越えて「前に進む」べきだ、と。

【関連記事】イーロン・マスク「ナチスの過去など忘れろ、誇りをもて」と独極右政党と国民を応援


AfDは現在、中道右派の最大野党であるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)に次ぐ支持率を獲得している。ドイツの選挙で特定の政党が単独過半数を獲得することはまずあり得ないし、選挙後の連立政権にAfDが招かれることも考えにくい。

それでも、AfDが訴え続けてきた反移民の主張は既にドイツの言論と政治文化を大きくゆがめている。選挙で勝利するまでもなく、同党の政策が実行に移されていくのかもしれない。

それを浮き彫りにしたのが、1月最後の1週間にドイツ連邦議会で起きた動きだ。

1月29日、CDU・CSUの提案にAfDが賛同し、移民・難民対策の厳格化を政府に求める決議案が可決された。連邦議会で極右政党の協力により多数派が形成されたのは、史上初めてだ。ナチス時代の反省により、主要政党が極右政党と協力することは「タブー」とされてきたのだ。

このような選択をしたCDUのフリードリヒ・メルツ党首に対しては、長年のタブーを破り、AfDにお墨付きを与えかねないとの批判が広がっている。在任中に中道路線を追求したアンゲラ・メルケル前首相も、AfDと協働することは「間違っている」とする声明を発表した。

法的拘束力を持たない29日の決議に続いて、メルツは法的拘束力を持つ移民流入規制法案も連邦議会に提出した。31日の採決では、CDU・CSUの一部議員が反対に回り、大方の予想を覆して法案は否決されたが、AfDの議員は全員が法案に賛成した。

CDU・CSUが第1党になれば、AfDとの協働がいっそう進むのではないかという懸念の声が高まっている。

マスクの存在は、AfDが支持を集めている最大の要因とはとうてい言えないが、最近の躍進の大きな後押しになっていることは間違いない。

マスクが経営する電気自動車大手テスラは、ドイツの工場における森林伐採や水資源への悪影響、労働問題などを理由に批判を浴びてきた。一部の論者が指摘するように、AfDの経済政策がマスクのビジネスを利する内容であることは偶然ではないだろう。しかし、マスクが極右政党にのめり込んでいることを全て経済的利害だけで説明することは難しい。

同様のことは、メルツにも言える。現在の政党支持率を見る限り、選挙後は社会民主党(SPD)のショルツ首相に代わってメルツが首相になる可能性が最も高い。極右政党に秋波を送るというリスクを伴う行動をわざわざ取る必要はないはずだ。

AfDと接近すれば、選挙後にSPDや緑の党との連立交渉はいっそう難しくなる。この両党が連立を拒否すれば、連邦議会で過半数を押さえるために手を組める相手はAfDしか残されていない。

選挙後、連立政権に正式に加わるかどうかは別にして、AfDとその支持者はドイツ政治に及ぼす影響力を強めていくのかもしれない。

The Conversation

Matt Fitzpatrick, Professor in International History, Flinders University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

高市氏「ベネズエラの民主主義回復に努力」、米攻撃支

ワールド

サウジ、イエメン南部問題で対話呼びかけ 分離派が歓

ワールド

焦点:ベネズエラ介入でMAGA逸脱、トランプ氏は「

ビジネス

追加利下げは「まだ先」の可能性=米フィラデルフィア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...強さを解放する鍵は「緊張」にあった
  • 2
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 3
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 4
    2026年の節目に問う 「めぐみの母がうらやましい」── …
  • 5
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「断食」が細胞を救う...ファスティングの最大効果と…
  • 8
    松本清張はなぜ「昭和の国民作家」に上り詰めたのか…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    感じのいい人が「寒いですね」にチョイ足ししている…
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 3
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 4
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 5
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 10
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中