最新記事
荒川河畔の「原住民」⑪

元自衛官、米軍特殊部隊員...海外に別荘を持つ「大金持ち」からホームレスになった波乱万丈人生

2024年11月13日(水)19時55分
文・写真:趙海成
荒川河川敷のホームレス

「兄貴」を取材したとき、彼が保管していた40年前の自衛隊の帽子をかぶってもらった

<荒川河川敷のホームレスを取材する在日中国人ジャーナリスト趙海成氏が出会ったのは、異例の経歴を持つ「兄貴」。一時はホームレスとなり、今はホームレスの支援をしているが、かつては優秀な自衛官だったという>

※ルポ第10話:「暴力を振るわれることもある」...「兄貴」が語ったホームレス福祉の現状とは? より続く


今日の物語の主人公「兄貴」は、日本の北海道に生まれ、7人兄弟の末っ子である。以下は兄貴自身が語った、家族と彼自身の波乱万丈の物語だ。

彼の父は戦前、北海道よりもっと北の島「樺太」の国境警備隊の軍人だった。

近世以前、樺太にはアイヌ、ウィルタ、ニヴフなどの先住民が居住しており、主権国家の支配は及んでいなかった。近代以降、樺太の南に隣接する日本と、北西に隣接するロシアとが競って、両国の多くの人が樺太へ移住するようになった。

明治38年(1905年)の「日露講和条約」により、北緯50度線を境に、樺太の南半分を「カラフト」として日本が、北半分を「サハリン」としてロシアが領有することになった。当時樺太に住んでいた日本人の数は最も多い時で約40万人に上ったという。

兄貴の父は国境警備隊の小隊長として樺太で駐在する間、そこの銀行家の娘と知り合って結婚した。

第二次世界大戦後、樺太全島はソ連軍に占領された(現在はロシア領)。

父が勤務している国境警備隊全員が、すべての武器や軍服を捨て、ソ連軍が入る直前に民間人と一緒に樺太から引き揚げるよう上司から命じられた。輸送中、3隻の船がソ連軍の潜水艦からの攻撃を受け、1700人以上が犠牲となった。

兄貴の両親が乗っていた船だけが幸運にも難を逃れ、北海道に着いた。

その後は庶民として戦後の辛い日々を過ごした。夫婦の間には10年の間で息子2人、娘5人が生まれた。その末っ子が今日の主役「兄貴」である。

樺太から撤退した3隻の船がソ連軍の潜水艦から攻撃を受け、沈没したことを伝える当時の新聞記事

樺太から撤退した3隻の船がソ連軍の潜水艦から攻撃を受け、沈没したことを伝える当時の新聞記事 YouTubeチャンネル「シリーズ「樺太を語る」辻力さん(樺太の歴史、後編)」より

ビジネス
「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野紗季子が明かす「愛されるブランド」の作り方
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中