最新記事
ウクライナ情勢

ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か

Has Zelensky Walked Into Putin's Trap?

2024年8月19日(月)17時48分
ブレンダン・コール
ロシア領土に侵攻したウクライナ軍戦車

ロシア領土に侵攻するウクライナ軍戦車  Sky News/YouTube

<死活的に重要な東部の前線でロシア軍にやられっぱなしのウクライナ軍が、なぜ北に離れたロシア国境のクルスクで奇襲をかけたのか。もしやロシアの罠ではないのか>

ロシア西部クルスク州への侵攻を続けているウクライナ軍について、その目的と大胆な作戦がどこに行き着くのかという臆測が高まっている。一部のロシア国営メディアは、ロシア侵攻は、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領にとって自縄自縛の「罠」となり、最終的にはプーチンが勝つだろうとほのめかしている。

【動画】ウクライナが占領したロシア国境の町スージャ、変わり果てた姿

ロシア政府の国営メディアは、ウクライナがいとも簡単にロシアに越境攻撃を成功させた理由を解明しようとしている。たとえば国営通信社RIAノーボスチは、ウクライナ軍の作戦開始から1週間後の論説で、ロシア軍は「状況を掌握している」と述べた。その前日には、親ロシア政府派のツァーリグラードが、ウクライナ軍部隊が「罠にはまり」大損害を被ったと伝えた。

だが、事実を捻じ曲げたこのような解説は、ロシアの軍事ブロガーを含めてウクライナ側の優勢を示す証拠・証言と食い違う。ゼレンスキーは8月15日にウクライナ軍が天然ガスを西側に送る拠点の町スジャを占領したと述べている。

双方とも自分たちをよく見せようとするのは当然だが、これまでのところクライナ軍が罠にはまったという証拠はない。一方で、ウクライナが次に何をしようとしているのか、プーチンはそれに対抗できるのかが、大きな疑問なのは間違いない。

プーチンの警告通りの「侵略」

ウクライナは東部のドンバス地方でロシア軍の進軍を留めているべき最強部隊を、北に離れたロストフ州の侵攻に使っている。ロシア軍が効果的な反撃を仕掛けてくれば危険な場所だ。

ロンドンのキングス・ビジネス・スクールのマイケル・A・ウィット教授(国際ビジネス・戦略)は、ウクライナ軍は「戦線を拡大しすぎて、貴重な人材や資源を失い、プーチンのほうはこれを口実にさらなるエスカレーションを起こす危険性がある」と指摘する。

プーチンは今回の越境攻撃を、ウクライナ戦争を国内向けに正当化する理由として利用できるかもしれない。彼はこれまで、ウクライナ侵攻を開始したのは、ロシアが西側からの脅威にさらされており、ウクライナは西側の手先だからだと主張し続けてきたからだ。

「二つの力が正反対に働いている。ひとつは、ロシアが脅威にさらされているという物語を強化する働きだ。国家的な危機の時期に生じる『旗下結集効果』が働いて、プーチンへの支持を高めることになるかもしれない」と、ウィットは本誌に語った。

「もう一つの正反対の動きは、プーチンとその政府がロシアを守るにふさわしい指導者かどうかに疑念を投げかける動きだ」と、彼は言う。「プーチンが支配者として力を失う明確な兆候はないと思うが、独裁者の末路はえてして突然なものだ」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中