最新記事
ウクライナ情勢

ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か

Has Zelensky Walked Into Putin's Trap?

2024年8月19日(月)17時48分
ブレンダン・コール

ロストフ州でロシア軍がウクライナ軍の攻撃を防げていないことで、ロシア側には領土防衛にあたる予備軍が不足していることが明らかになった。ただでさえ、ウクライナ東部と南部の前線では死傷者が続出して兵力が減少している。ロシア政府は兵役に対する報奨金を増額するなどの優遇策も実施しているが、徴兵はうまくいっていないようだ。

ロシア国防省に近い匿名の情報筋の話では、年内には新たな動員が行われ、休みが必要な前線部隊の交代要員になる可能性があるという。

ウクライナによる越境攻撃がある意味プーチンの思う壺なのは、「ウクライナのNATO加盟は許せない」というプーチンのかねてからの主張が改めて説得力をもつからだと、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのシンクタンク、LSE IDEASのビク・ビクサノビッチは言う。

本当の戦争は東部と南部

フィンランドを拠点とするオープンソース情報分析会社ブラック・バード・グループの軍事専門家エミール・カステヘルミは、人的資源が不足しているのはウクライナ軍も同じだと指摘する。そこで今回のような越境攻撃を行えば、ウクライナにとって貴重な人材をいたずらに消耗させることになりかねない。

「多くの人命と装備を犠牲にしてロシア国境の村を数十ばかり占領しても何の役にも立たない」と、彼は本誌に語った。「普通に考えて、この戦争はクルスクでは解決しない。最も戦略的に重要な地域は、依然としてウクライナ東部と南部だ」

ビクサノビッチも、ドンバス地方でロシア軍に「圧倒されている」ときに、ウクライナ軍が越境攻撃を行うのは道理に合わないと言う。たとえそれでロシアの国境の守りの弱さとロシア指導層の無能さが明らかにできたとしても、それで戦争に勝てるわけではない。

ウクライナによるロシア侵攻の狙いの一つは、ウクライナ軍の士気がまだ高いことを証明し、西側諸国からの支援を引き出すことかもしれないと、ビクサノビッチは言う。「ウクライナはアメリカ大統領選挙の結果を警戒している。もしトランプが勝てば、ウクライナへの援助を停止するリスクがあるからだ」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国と推定される無人機、15日に与那国と台湾間を通

ワールド

中国、ネット企業の独占規制強化へ ガイドライン案を

ワールド

台湾総統、中国は「大国にふさわしい行動を」 日本と

ビジネス

持続的・安定的な2%達成、緩和的状態が長く続くのも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中