最新記事
新たな超大国

「インドで2030年、奇跡の成長が始まる」モディが体現する技術革新と伝統の両立への道

MODI’S MOMENT

2024年5月16日(木)17時09分
ダニシュ・マンズール・バット(本誌アジア地域編集ディレクター)

newsweekjp_20240516025910.jpg

モディは中国の習近平国家主席が進める軍備増強には大きな脅威を感じている XINHUA/AFLO

2億人以上が貧困から脱却

モディ時代のインフラ投資がもたらす莫大な経済価値は、インド人の自己評価も高める。「インドはモディの下で、国家建設という巨大プロジェクトに取り組んでいる」と、フォーリン・ポリシー誌のラビ・アグラワル編集長は4月に語った。

「モディは、よりパワフルで、たくましく、誇り高い国を提示し、国民はそのイメージにうっとりしている」

モディは日本や中国になぞらえられることを嫌がり、インドの伝統的な価値観に基づく「人間中心の開発」を唱える。

そして「インドはこの10年で世界最大の貧困撲滅運動を展開し、2億5000万人を貧困から脱却させた」と胸を張る(ただし中国には30年間で約8億人を貧困から脱却させた実績がある)。

実のところ、国際社会もインドが中国と同じ道をたどることは望んでいない。現在のインドのGDPは、07年の急成長期の中国とほぼ同レベルだが、この頃中国は世界最大のCO2排出国となっており、現在は世界全体の約3割、アメリカの約3倍を排出している。

インドは既に世界第3位のCO2排出国だが、まだ成長の(つまり汚染源としての)ごく初期段階にある。

現在の成長の在り方を変えない限り、インドは地球の気温上昇を1.5度以内に維持できる世界のCO2排出量の36%を食いつぶすことになると、米経営コンサルティング大手マッキンゼーは22年に指摘している。

幸い、モディは中国とは異なる道を選んできた。「インドのインフラ整備と、気候変動対策の約束との間に矛盾はない」とモディは語り、2070年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにするための計画や投資目標を次々と挙げた。

マッキンゼーによれば、インドのこうした成長路線は地球を救う可能性がある。

環境に優しい経済成長は、未来の世界経済におけるインドと中国の役割の違いの1つにすぎない。例えば、米中対立の影響を避けるために、中国をサプライチェーンから外して、インドに製造拠点を移す企業は増えている(アップルがいい例だろう)。

それでもインドにとって、中国は長年大きな脅威だった。米ウッドロー・ウィルソン国際研究センターの冷戦史プロジェクトによると、1950年代、ネールは中国に代わってインドが国連安全保障理事会の常任理事国となることを2回打診されたが、2回とも断ったという。

中国との関係悪化を懸念してのことだ。インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相は今年3月のスピーチで、中国に対する遠慮は現在も存在することを認めている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

関税の影響「予想より軽微」、利下げにつながる可能性

ワールド

イラン、カタールの米空軍基地をミサイル攻撃 米側に

ビジネス

米総合PMI、6月は52.8に低下 製造業の投入価

ワールド

対イラン米攻撃の「合法性なし」と仏大統領、政権交代
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 8
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 9
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 10
    【クイズ】次のうち、中国の資金援助を受けていない…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中