最新記事
新たな超大国

「インドで2030年、奇跡の成長が始まる」モディが体現する技術革新と伝統の両立への道

MODI’S MOMENT

2024年5月16日(木)17時09分
ダニシュ・マンズール・バット(本誌アジア地域編集ディレクター)

newsweekjp_20240516025838.jpg

中国の軍備増強は大きな脅威。写真は中国の新兵の壮行式 VCG/GETTY IMAGES

だが、ネールの中国への配慮は、62年の中印国境紛争を防ぐことはできなかった。この紛争は中国の勝利に終わり、インドは問題となっていた北部の領土の一部を失うことになった。以来、インドの歴代首相全員にとって、中国は地政学的に最大の悩みの種となってきた。

71年8月には、ネールの娘であるインディラ・ガンジー首相が、父親の貫いた非同盟主義を捨てて、ソ連との平和条約締結に踏み切った。

アメリカのヘンリー・キッシンジャー大統領補佐官(国家安全保障担当)がそれまで国交のなかった中国を訪問して、インドにとって中国が一段と大きな脅威になる可能性が示唆されたわずか1カ月後のことだった。

モディは今でもロシアと親密な関係を保っているが、独自外交を精力的に進め、今や中国を敵対国と見なすようになったアメリカに接近。米側もインドを重視していることは、本誌の取材に対する米国務省報道官の次のようなコメントからも明らかだ。

「バイデン大統領が米印関係は世界に最も大きな影響を与える2国間関係の1つだと述べたように......世界を導く超大国の1つとしてのインドの登場をアメリカは支持する」

「失業率4%弱」のカラクリ

モディは自ら中国の習近平(シー・チンピン)国家主席に国境紛争の解決を盛んに働きかけている。安保理の常任理事国入りを望んでいるのは疑う余地がない。

クアッド(日米豪印戦略対話)への参加は、長年の非同盟主義からの最も大胆な転換だ。声明では述べていないものの、クアッドはインド太平洋地域における中国の影響力に対抗する枠組みなのだから。

地政学的にも経済的にも大いに力を付けてきたインドだが、話はそこでは終わらない。モディ政権下で宗教的少数派への締め付けは強まっているようだ。

モディの支持者たちに言わせれば、イスラム教徒など宗教的少数派に与えられてきた特権を取り上げるヒンドゥーナショナリズム的な政策は、不公正の是正にほかならない。ヒンドゥー教の国としてのインド本来の姿に立ち戻ることこそ、進歩と国民統合の鍵を握る──彼らはそう信じている。

モディも同様の考えだ。北部のアヨディヤに建設されたヒンドゥー教寺院の落成式での発言がそれを示している。アヨディヤはラーマ神の生誕地とされ、1992年にヒンドゥー教徒の暴徒がここにあったモスク(イスラム礼拝所)を破壊。その跡地にラーマ神を祭る寺院が建設された。

「ラーマ神が生誕の地に帰還した。国家の統合にとって歴史的な瞬間だ」と、モディは本誌に語った。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

デギンドスECB副総裁、利下げ継続に楽観的

ワールド

OPECプラス8カ国が3日会合、前倒しで開催 6月

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ワールド

ロ凍結資金30億ユーロ、投資家に分配計画 ユーロク
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中