「戦闘に勝って戦争に負ける」民間人の犠牲拡大に米政府が戦争遂行への3つの疑問をイスラエルに提起

HOW MANY IS TOO MANY?

2024年1月15日(月)11時35分
ウィリアム・アーキン(ジャーナリスト、元米陸軍情報分析官)

イスラエル空軍のオメル・ティシュラー参謀長らによれば、開戦1週目には、空軍機が攻撃目標を知らずに離陸し、空中で標的の位置を指示されるケースもあった。

本誌の取材に匿名で応じた軍幹部によれば、当時はハマスの軍事力をそぐことが最優先だったため、民間施設やその近くでも容赦しなかったという。

米・イスラエル両国の軍事筋によると、初期段階でイスラエルが使用したのは爆弾から迫撃砲、ロケット弾に至るまで、ほぼ全てが精密誘導弾だった。

人口が密集した都市部で、隣接する民間施設などへの被害を最小限に抑えるための配慮であり、イスラエル軍は以前からそうしてきたという。

またイスラエル軍によれば、一連の攻撃でクラスター爆弾や白リン弾は使用していない。

それでもガザ地区のように狭くて人口の密集した場所で、いっぺんに1200もの標的をたたく軍事作戦は前代未聞だ。

国際社会からの反発が高まるにつれ、バイデン政権はイスラエル軍の作戦行動についての検討を始めた。

前出の空軍将校が本誌に語ったところでは、イスラエル軍による爆撃の範囲は米軍の想定よりも広く、(少なくとも最初の2週間は)米軍なら使わないはずの大型爆弾を多数投下していた。

また米空軍と国防情報局の報告によると、イスラエル軍は敵の戦闘員が既に脱出してもぬけの殻となった標的にも攻撃を加えていた。

建物を破壊し、二度とハマスが使えないようにするためだ(こうした攻撃は国際法違反と見なされる可能性があるため、今の米軍は行っていない)。

世論の圧力と批判が高まるにつれ、イスラエル政府は反論を試みた。

「『民間人』ないし『民間施設』と目されるものを標的にしたという事実だけで違法な攻撃と結論することはできない」。

イスラエル軍は法的な正当性を調査した白書にそう記し、さらに「わが軍の求める軍事的利益には、敵の軍事資産の破壊、戦闘員の殺害、敵の指揮命令系統の弱体化、軍事目的で利用される地下トンネルやインフラの無力化、わが軍の地上部隊を危険にさらす拠点の破壊などが含まれる」と続けている。

法的には、それで正しいのかもしれない。

しかし、瓦礫と化したガザの惨状や血まみれの子供たちの遺体を捉えた写真や動画ほどの説得力はない。

現にバイデン政権内部の議論では、国防長官を含む複数の幹部からイスラエルの主張を疑問視する声が上がり、そうした意見がイスラエル軍にも伝えられたという。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

北・東欧8カ国首脳、EUの防衛強化訴え ロシアは「

ビジネス

米ワーナー、パラマウントの買収案拒否の公算 17日

ビジネス

FRBの追加利下げ、インフレリスク高める可能性=ア

ワールド

トランプ氏支持率39%に低下、経済政策への不満広が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中