「戦闘に勝って戦争に負ける」民間人の犠牲拡大に米政府が戦争遂行への3つの疑問をイスラエルに提起

HOW MANY IS TOO MANY?

2024年1月15日(月)11時35分
ウィリアム・アーキン(ジャーナリスト、元米陸軍情報分析官)

240116P18_GZA_04.jpg

ハマス殲滅を誓うイスラエルのネタニヤフ首相 RONEN ZVULUNーPOOLーREUTERS

前出の米空軍上級将校は、 「イスラエル軍は民間人や民間施設を標的にしているわけではない」と指摘した。

「イスラエル軍は、米軍なら攻撃をためらうような場所でハマスを攻撃しているか? 答えはイエスだ。

軍事目標達成のためなら批判を浴びてもいいと考えているか? これもイエス。

だが民間人の被害を最小限に抑えるというのは努力目標であり、彼らもその努力はしている」

ハマスへの報復攻撃を開始した初日の夜、イスラエル軍は戦闘機と攻撃ヘリによる空襲と、地上および海上からの砲撃で500以上の標的を攻撃した。

ハマスやパレスチナの武装組織「イスラム聖戦」の拠点や幹部の住居とされる「複数階の建物」も含まれていた。

当局者によれば、イスラエル軍は既存の有事作戦計画に基づき、大規模攻撃への「最大限」の対応として、軍事基地や地下施設と目される場所やハマス指導部の拠点を集中的に爆撃。

砲撃基地や監視所も含め、約1200カ所が標的となった。

アメリカ側の情報によると、イスラエル空軍は既存の計画どおり最初の72時間で約2000発の爆弾を投下した。

パレスチナ自治政府の保健省によれば、この一連の攻撃で民間人849人が殺害され、4250人が負傷したという。

米・イスラエル両国の軍事筋によると、ハマスに宣戦を布告した後、イスラエル軍はハマスによる奇襲の規模と被害状況に鑑み、標的の選択に変更を加え、既存の交戦規定の一部を緩和した。

軍のダニエル・ハガリ報道官によれば、「正確さより打撃を重視」することにした。

ハマス殲滅作戦にシフト

イスラエル軍の現役幹部はこう説明した。

「真の変化は、限定的に懲罰を与える作戦から、ハマス殲滅作戦にシフトしたことだ。適当な標的を攻撃するのではなく、ハマスの軍事機構そのものを破壊する。これまでの作戦とはそこが違う」

イスラエル軍と米情報機関の推定では、ハマスの軍事部門「イザディン・アルカッサム」の戦闘員数は2万5000人強。

24大隊の下に140の戦闘中隊があり、それぞれが歩兵や工兵、ロケット砲、対戦車、防空担当の部隊を擁している。

またイスラエル軍によれば、イスラム聖戦にも1万7000人の戦闘員がいる。ハマスとの合計で、戦闘員の数は4万2000人になる。

どちらの組織についても、イスラエル軍は司令部や支援施設の場所を特定している。

分散した部隊や戦闘員も標的となる。

イスラエル軍が最初に猛爆を加えたガザ北部には、ハマスの5旅団のうち2つ(最多の戦闘員約9000人を擁するガザ市旅団と、戦闘員数約4800人のガザ北部旅団)の拠点があった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=反発、アマゾンの見通し好感 WBDが

ビジネス

米FRBタカ派幹部、利下げに異議 FRB内の慎重論

ワールド

カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブルージェ

ビジネス

NY外為市場=ドル/円小動き、日米の金融政策にらみ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 7
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 8
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 9
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中